フライパンを片手に、それに繋がったコードを口にくわえる。
少し息を止めて、集中。目を閉じてもいい。

ふろろろろ……という小さい音が。少しずつ大きくなって。
……と………………ト……………………ト……
………………とと………………トト…………
……トトン…………トトン………………トク……
……トク……とくん、とくん……トクン……。

私のお腹の中で、もう一つの命が動き出す。
そしてその流れを伝わらせて、再び自分に返すイメージ。

ジ……と小さく音を立てて、フライパンが熱を帯びていく。

こんな調理器具は私にしか使えない。
私のために作られた、私専用の道具。
私が少しでも快適であれと作られた道具達。
そんな道具がこの家にはひしめいている。

……便利……なんだろう、きっと。
何も考えなければ。
ただそれがそれであるという風に。
背の高い者が棚の上にある物を台座なしに取れるように。
当たり前だと思って。

それでも私は、使うたびに……。

「ジジィーめーしー……めしできたぞー」カンカンカン

その晩の夢はジジィの作った小型の熱気球を追いかけている夢だった。
走っても走っても、追いつけない夢だった。

　　　　　　足元で白い子犬がじゃれている。