さらさら　　さらさらさら


　「あら、あら。まぁ、まぁ」

　腕試しと称して、ほんの軽い手合わせを交わした男——ラルフから譲り渡された“ネクター”。
　その紅色を、わずかに切り削って無造作に地面へと振り撒いてみる。
　次の瞬間、目には見えず映りもせず、しかし確固としてそこに『在る』モノ——おそらくは大地を依り代とする『エンブリオ』が、“人形使い”の撒いたネクターの力に応え、ゆっくりとその身に重なり、染み渡ってゆく。
　これこそが、『エンブリオ』との本来の形での“契約”のプロセスなのだろう。擬似的な『結び付き（Link）』を、ネクターを媒介として構築・維持するシステム……メルンテーゼという世界における、技術としての知恵。

　「なるほどですわ、なるほどですわ！
　　とても情緒的で、とても曖昧で——なんて素敵な仕組みなんでしょう！
　　あぁ、もっと沢山、この昂ぶりを積み重ねていきたくなってしまいますわねぇ。うふふふ……」

　くるくると、狂る狂ると。
　大鞄を中心に置いて、軽やかにステップを踏んで踊るように、愉しげに“人形使い”が回り廻る。
　その周囲を、目には見えぬ『モノ』がゆらゆらと、動きを合わせるかのように巡り漂い——やがて、彼女と大鞄へとそれぞれ、馴染み交わるように吸い込まれていった。


　「あははァ——くふふ、くふふふ。
　　こんな感覚は初めてですの、とても素敵で素晴らしいですわ！
　　これだけを取っても、『一揆』に助力して差し上げる分の報酬としては破格と言えますかしら？」


　それからもしばらく、くるくると楽しそうに、人形劇の人形のごとくその場を廻り続け——
　どれほどの時間が経ったものか。名残惜しげに、その歩みを普通のそれに戻すと、大鞄をゆっくりと引き転がしながら、ルリアンナ達が去っていったのとは反対の方向へ、機嫌良さそうに歩き出した。
　その歩く先にも、“人形使い”にとっての『素敵』な者達が待っているのだ。


　「お待たせしてしまっては、いけませんものねぇ。くふふふ——」


　ぺろり、と艶めかしいその唇を赤い舌が舐める。
　まるで……そう、まるで何か、


　　　美味しいモノでも食した　かの　よう　に


　　満足げな微笑を、浮かべて——