□ Day 2 ： いのちだいじにしてない

　アサミは狼狽していた。なぜかというと、ノームであるハナガサを介して放った技が、自分が予想していたものと大きく違っていたからだ。近所のおじさんから譲ってもらった荷車に、タケノコや寝袋、調理道具などを積みこむやいなや、アサミの笑顔は次第に泣き顔へと変化していった。
　彼女はラルフとの手合わせの際「いのちだいじに」と叫んだ。相手を殴るのはある程度攻撃に耐えてから、と考えている身としては、さほど重要でない戦闘での消耗は極力減らしたい。この他の分割世界発祥の言葉は、そういった点でアサミの考えと一致していた。

　が、先刻の戦闘で最初に繰り出した技、ストライキング。その効果はまさかの自身の攻撃能力を上げるものだったので……

　泣いていた。出発時のテンションはどこへやら、といった様子である。

　アサミは母の姿を思い浮かべた。濡れ羽色の髪に白い肌、うっすらと青い瞳。今は一日中横になっていないといけないほど、体力が衰えてしまった、自慢できる、憧れの人。そんな母の周りにはいつも、複数のエンブリオが付き添っていた。

　ニウノハラで伝えられている噂である。

　と、ハナガサが半ば呆れながら契約者の様子を見ていると、

　茂みを掻き分けて出てきたであろう、一羽の雀。

　なんとこの鳥、テレパシーのような脳内に響く声を使って、アサミと会話を試みた！

　ハナガサの忠告をまるで聞いていないかのように、アサミはこの物珍しい雀を荷車に載せようとしていた……

[>アサミは雀に向かってかわいいだの、触りたいだの話しかけている……

男の子とも女の子とも見分けがつかない子供が、耳をすませながら何かを探している。やがて２０ｃｍ台の少女の存在を発見すると、自身の姿を３０ｃｍ台にして話しかける。