「はい、これ」
上司に分厚い冊子を渡された。
どさどさどさ。
「はい？
…何やら随分と厚いのですが」
「そうだねぇ、随分厚い。
なんでも君の新しい任務に関する資料、らしいよ？
それにしても、随分な抜擢だよねぇ、君の仕事の頑張りが認められたんだよ」
いつもうだつの上がらなさそうな上司が、珍しく笑いながら肩を叩いてくる。
「…はぁ、それは、どうも」
「日々の弛まぬ努力がこのチャンスを引き出せたんだよ。
頑張れよ、飛龍君」
「…頑張ります。
これを頭に入れなければならないので、失礼します」
「おぉ、熱心だね。
上の期待に応えられるよう頑張るんだよ？」
「…はい。失礼します」



「で、この資料ですか？
これ、ざっと見積もっても1冊1000ページはありますよ？
それを3冊ですか？」
呆れたように言われる。
「言うなよ…気が重い。流石に、これを全部叩き込むのは3日でも難しいな…
まぁ、最悪持ち込みか…？」
我ながら溜息しか出てこない。
「…大変、なんですね。
上の仕事は」
「…あぁ？
なんだ、妙な声出しやがって」
「…いえ。
不安、でして。
貴方の後を継いで、ここの長を務めるのは」
…下らない話だ。
結局、変わらない。
「…で？だったら辞めるのか？」
「っ！？」
「どんな事があっても、オレ達はやるしかない。
失敗しようが成功しようがだ。
オレ達は、組織の駒、歯車でしかない。
命じられた任務に疑問を持つな。任務では感情を捨てろ。
迷いは判断を鈍らせる。
———オレはお前に、そう教えて来たはずだがな」
「…でも、私は———」
「お前の愚痴を聴いてる時間は、生憎とないんでな。
———やれやれ」
女と言うのは理解に困る。
言葉で言っても分からないくせに。
「———大丈夫だ。
お前なら、出来る」
「…！」
表情が変わる。
全く、単純な奴だ。
「話は終わりだ。
お前はお前が出来る事をすればいい。
それだけだ」
「…はい！」
…やれやれ。

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「あー…」
さて、そうしてこの地に降り立ったオレは、首尾良く反乱軍…一揆、軍に潜入に成功した。
目下の問題は———
「…全く、この機械の使い方は全く分からん」
エンブリオ———
この世界に存在する霊的な存在———その他のデータは詰め込んだ筈だが全く覚えてない。
これはそれを擬似的にそのエンブリオの機能をした機械らしい。
なお、名前もそのままエンブリオ。ややこしいことこの上ない。
———まぁ、契約だのなんだの、意思を疎通させる必要があるだの、と煩わしい要素満載だったのでこれを頂けたのは非常に助かる。
まぁ、持っていれば問題ないらしい。
他者と関わる際には少々骨かもしれんが、まぁそれはその時に考える事にする。
このネクターとやらも持っていれば得だろう。最悪何かの取引にも使えるだろうし。

しかし———
「俺の組織は、そこそこやばい技術力だよなぁ…
まぁ、次元を相手にする以上は、相応の技術がないといけないんだろうが…」
常識的に考えれば、その次元に存在する技術を、それも霊的な存在のものをこんなにサクサク制作出来るのは異常だ。
そもそもあの組織には不明瞭な点も多い。
あの次元はあの組織の管理下にあるようだし、任務で向かった次元はゆうに30を超える訳で———
と色々と思索を巡らせていると、目の前に魔物らしきものが現れた。
———名状し難い形状だ。
まぁ、考えは後にするか。
監視の目はないから気楽とは言え、魔物の戦力評価は立派な任務の一つだ。
背負った斧を取り出して。
「戦力評価、開始する」
魔物に向けて、俺は踏み込む。