起伏の激しい山道を何度も躓きながら、走る。
来た道なんて覚えていない。ただ、目の前に光るそれを追いかけるだけ。
ひときわ高い段差にさしかかり、ふわりとエンブリオは宙に舞いあがった。
「…っぐ、はあっ、はあっ…」
荒い息を整える間もなく、ポケットの石を投石紐に番える。
一足遅れて辿り着いたカカが、崖の上へレグルスを持ち上げようとするが、二人とも体力は限界に近かった。
相手もそれは同じようで、明らかに先ほどよりも動きが鈍い。

里で戦士を目指す女性はほぼいない。
力を持たない代わりに戦士たちの世話をし、戦士によって生活を守られる。
戦士を目指すものは10になった時に、己の力でエンブリオ契約を行う必要があった。
その機会を逃せば一年、女たちに混じって働かなければいけない。
レグルスは、既に6年をそうして過ごしていた。

「くそ…もう少し…ちくしょう！」
口の中が乾いて狙いどころか息もままならない。折角この日が来たというのに、このまま取り逃がしてしまうんだろうか。また、置いて行かれる。オレだけ。オレがチビだから。他のみんなより、鳥から遠いから。
惨めだった。知らず涙が滲んで視界がぼやける。
「どうにか…どうにかなんないのかよおおぉ！！」
「…」
二人分足しても手は届かない。もうすこしなのに。
どうにか。
どうにかできないのか。
「もう少し！
もう少しじゃねえか！！なあ…　」

次の瞬間、レグルスの体は高く宙に舞っていた。

「…！？」

体の自由がきかない。掴まる場所を探すように、無我夢中で目の前の物にしがみつく。
次の瞬間、背中に感じた強い衝撃。
緑色の気配を感じながら、レグルスはそのまま気を失った。

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「なつかしいですね」
「なつかしいですね」
「もうどのくらい前ですか」
「まだあの頃は今よりネクターがあった気がしますから」
「そのくらいですか」
「どうですか？虐められたりしてませんか？」
「思ったほどではないです」
「それはよかった」
「あなたもこれから忙しくなりますよ」
「でしょうね」
「いやですね」
「こわいですね」
「それでは、また」
「それでは、また」

すれ違いざまに、赤い果実を放り投げ。

気絶したマーメイドの髪を掴んで顔を覗き込む。