剛拳のラルフ…五体は達者だが肝心の背中がお留守となっていた。
疲労と手心がそうさせるのか、正面から相対しているにも関わらず精神的背後が透けて見えてしまっている。問題にもならない。
仮に今後万全全力で向かってきたとしても、苦労こそあれ踏破し後ろに立つことはできるだろう…が。
それよりも恐るべきはこの娘、ルリアンナ…よほど油断のならない相手だ。
ラルフと話す時も餞別を手渡し下がる時も、決してこちら…だけでなく、一揆に集まったあらゆるものに対し直接背中が向かない立ち位置を保っていた。
この娘が自分の敵であるとは限らないが、この一揆の容易ならぬ背景であることは疑うべくもない。今後とも細心の注意を払う必要があるだろう。

そのルリアンナから、他の参加者と隊伍を組み進攻するようにとの勧めを受ける。当然、丁重に断る。
隊を成すことで、裏切られて寝ている背中に回り込まれて刺されることを恐れているわけではない。そもそもそんなことは一人でいても同じように恐れるべき懸念だ。
問題は、仲間を持つということ…警戒すべき背後が増えてしまう点にこそある。
自身とアニマの背後だけならともかく、それ以上の無防備背後を警戒しつつ敵の後ろに回り込める自信は無い。後ろに回り込もうとする背後こそ、最も後ろに回り込まれやすいものなのだ。
しばらくは大事を取って単身での行動を取る。

かわいらしい二人組とすれ違う。背後へ放つ気配でわかる、あれは地獄を見せる側の背中だ。
背中が粟立つのを感じながら、彼女らが後ろへ回り込む相手が私と同じであることを願う。
尤も、彼女らの敵が私のそれと同じだったとして、彼女らが私達の背後を脅かさない保障はどこにも無いのだが…つまるところ命とは背後の奪い合いなのだ。それは私自身身「が」余るほど思い知らされている。

試し合いを求める四人組と出会った。
頭数は違えど手合わせできるなら…と成り行き勉強させていただくことになった。
このうち一人は、対象の弱点…トラウマの背後に回り込むという恐るべき技術を体得しているらしい。
この世界に迷い込んでからというもの、未体験背後を突かれる経験から離れて久しい。
より背後を警戒できるよう、大いに胸を貸していただきたい。