メルンテーゼに着いて最初に会ったのは、赤い髪の若い女性だった。

ルリアンナ『初めまして、私はルリアンナ。この一揆を影でサポートする参謀！ルリでもアンナでも、好きに呼んでね。』

話を聞けば、ルリアンナという名のこの女性が、交流のない我が国に応援要請を出した張本人だという。
随分と行動力のある女性のようだ。


軽く挨拶を済ませた後、ルリアンナは僕を上から下までじーっと観察する。
品定めでもされているようで、どうにも居心地が悪い……。

ルリアンナ『あら、エンブリオとはもう結んでいるのね。だったらまぁ大丈夫だと思うけど・・・・・念のためっ
・・・ラルフ！ラールフー！！いまこっち来れるー？』

そう言いながら誰かを呼び出す。


隻眼の大男『おうおう・・・・・・・・おう・・・・・・・・・・』

やって来たのは、隻眼の大男だった。
見たところ、随分と疲れている様子だが、大丈夫なのだろうか……？

ルリアンナ『あれ？どうしたのラルフ？ねぇラルフぅ？？』

ラルフ『集中的に増援が来すぎなんだよな、うん。呼ぶのは構わんがもう少し計画的にだな・・・。』

その言葉を聞いて辺りを見回してみると、この反乱の応援に来たと思われる者達の姿が目に入った。
此処から見渡せるだけでも、十数人はいる。
もっと離れた場所にいる者や、もっと前に着いてすでに行動を始めている者たちもいるだろうから、けっこうな人数がいる事が予想できる。

ルリアンナ『私のことなら大丈夫っ！喋り慣れてるからッ！！』

ラルフの問いかけに、ルリアンナは無駄に大きな声で答えている。
疲れきった様子のラルフとは対照的に、ルリアンナは大丈夫という彼女自身の言葉通り、疲れた様子は全くなさそうだ。

ラルフ『・・・・・俺のほうは大丈夫か？』

直接言わないとわかってくれないと思ったようで、ラルフは疲れきった顔でルリアンナに問いかける。

ルリアンナ『・・・・・。・・・・・ファイッ！！』

さすがにルリアンナも察したようだが、そんな事はお構いなしとでも言わんばかりのこの答え。
何とも、マイペースというか、強引というか……。

ラルフにこっそり呟いてみたら、ラルフは無言で項垂れるように力なく首を縦に振って頷いた。
あぁ、本当に苦労しているんだな……。


ラルフ『・・・さて、バカは置いといて・・・・・まずは腕試しだ。
ネクターも多くないが・・・・・何より、無駄な怪我人は減らしたいからな。』

ルリアンナがラルフを呼んだ目的は、腕試しというわけか。
さっきまでの話とラルフのこの様子だと、僕以外の援護に来た者たちとも腕試しをしてきたのだろう。
それでは、確かに疲れ果ててもおかしくはない。

ラルフがその大きな拳を握り、構える。

ルリアンナ『っというわけで、貴方の力・・・・・見せてちょうだい！十分な実力なら、ネクターを預けるわ。』

僕も、剣と盾を構える。


腕試しというからには全力を出さないと意味が無いと思い、全力で挑んだ結果、たった二発殴っただけでラルフは戦闘の終了を宣言してきた。
腕試しだから軽く実力を見るだけでいいと判断したのか、ラルフが疲れているから長々と戦いたくないから終わらせただけなのか、理由はよくわからないが……。

腕試しが終わった後、ルリアンナとラルフが何やら話をしているので、黙って聞いておく。
王の名はパラダイスというそうだ。
ルリアンナは魔王と言っていたが……。

王城には厄介な奴らがいっぱいいるからなるべく誰かと一緒に進むようにしたほうがいいとの事で、旅の商人の護衛を依頼された。
僕は一人でも大丈夫だが、商人ではそうはいかないだろう。
護衛の依頼は、当然、引き受ける事にした。
商人はセリーナ・セレスタイトという名の少女で、ここに連れてくるからこの場で待つようにとの指示を受ける。

話が済むと、ルリアンナはネクターという紅い花の花びらを数枚と、支給品と言って2つの物体を渡してきた。
何に使えるのか今の時点ではわからないが、とりあえず素直に受け取っておく事にする。


ラルフ『さてと、とりあえず一休みでもす・・・』

ルリアンナ『はい次いこ次ぃ！！』

休もうとするラルフの言葉を遮って告げられる容赦の無い言葉。
あぁ、かわいそうに……。

ラルフの願い虚しく、休む事はできずにそのまま、次の腕試しの為に二人は僕の前から去って行った。

……果たして、ラルフは大丈夫なのだろうか……。



しばらくその場で待っていると、一人の少女がこちらへ歩いてきた。
あの少女が、ルリアンナたちの言っていた旅の商人だろう。

少女『貴方がウィスタリア＝L＝スノーフレークさんですか？』

決して大きくはないが聞き取りやすいはっきりとした声で、少女が問いかけてきた。

あまりきつい口調にならないように気をつけつつ、少女の問いかけに答える。

セリーナ『はい、そうです。一揆の手伝いを兼ねて行商に来たのですが、一人では危険だと言われて困っていたので、護衛を引き受けていただいて助かりました。
よろしくお願いします。』

セリーナはそう言って、無駄のない綺麗な動作で一礼をする。
礼儀作法をしっかり学んでいると思われるその動き。
行商人とは言うが、おそらくはそれなりに大きな商家の娘なのだろう。

僕も静かに一礼をする。

セリーナ『スノーフレークさん、あの……私の事はセリーナと呼んで下さい。
長いこと母と一緒に行商していたから名前で呼ばれてばかりだったので、苗字で呼ばれるととっさに反応できなくて……。』

さっきまでのハキハキした口調とは打って変わって、少し恥ずかしそうにセリーナが呟く。
しっかりしてそうな言動のせいで少し大人びて見えていた彼女だが、こういった姿は歳相応の少女に見える。

僕も少し口調を和らげながら、セリーナの言葉に応える。

セリーナ『はい、ではウィスタリアさんと呼ばせていただきますね。
では、改めまして、よろしくお願いします。』

セリーナ『はい、行きましょう。』


こうして、メルンテーゼでの僕とセリーナの二人旅は始まった。