【２日目〜おっさん、おにく、おにく、おにーさん、おにく。〜】

「よぉし、いいだろう。ぜひ俺達の力になってくれ！」

そう言いながら、軽く手を叩くラルフさん。

うー、明らかに手を抜かれていた気がします。

何でいきなり手合わせしなければならなかったのか、よくわかんないですけど。

手を抜かれるのは、ちょっと悔しいです。

……まぁ、痛くないのは大歓迎ですけどねっ。



ところで、なんでこのおっさん、タックルしてくるんですか。

パンチとか、キックとか、いろいろあるとおもうんです。

しかも、叫びながら力いっぱい突進してくるだけって。

村のそばでよく見かけた獣と一緒です。

大岩の傍まで誘導して、突進してきたところを躱すことで、

岩に激突して簡単に気絶するんですよね。

で、そのまま持って帰ってお鍋の中に。

ちょっと硬いけど、私は結構好きなんですよねー、あれ。

……じゅるり。



ともあれ、お肉……もといおっさん、じゃなかったラルフさんは、

ルリアンナさんに引き摺られてどこかに行っちゃいました。

お二人はつがいなんですかね？　私の家族も、父様より母様のほうが、

いろいろと強いですが。そんな感じでしょうか。

つい、なんとなく目で追ってしまいましたが、どうやらあのお二人、

この辺を通りがかる人を狙って腕試しをしているようです。

すごく迷惑な気がしますが、まぁ、終わった後に、御礼として素材を配ってる

ようですし、いいのかな。そのうち誰かに怒られないといいな。



あ、また新しい人に絡んでます。

相手は——人間のおにーさんですか。背の獲物は……弓、ですね。

うぅん、村にも使う人は居ますけど、あんまり当たらないんですよね、あれ。

私もちょっとだけ触らせてもらいましたけど、アレは動く標的、とりわけ

避ける相手に対して、すごく使いづらい印象でした。

お相手のお肉…じゃなかった、ラルフさんだって、刺さるのいやだし、

避けますよね。どうするんでしょう。

あ、また突進してる。始まったんですね。

……お腹が空いてきました。お肉たべたいなー。

ちょっと興味が出たので、邪魔にならないところで観戦してみます。



——不思議な、ものを見ました。

矢が放たれるたび、だんだんラルフさんの足元がおぼつかなくなっていくんです。

遠めには、普通に牽制をしているようにしか見えないですけども。

最終的には、突進にもなりきらないような、よく分からない攻撃をしてます。

あれ、気絶する前のお肉みたいな……じゃなくって。

その後、動けなくするのに必要な分だけの矢を放って、手合わせは終わりました。

……なんだったんでしょう。呪術とか、妖術の類なのでしょうか？

あんなの、村じゃ見たことがありません。

うー、うぅー……、よし！



ちょっと悩みましたが、さっきのおにーさんのところに突撃しました。

とりあえず、自分のこと、その弓に興味があること、ついていきたいこと、

思いつく限り全部喋ります。

行く当てもありません、ここがどこだかも分からないんですし。

ウソも隠し事も苦手です。そういうのは、多分もっとアタマの良い人じゃなきゃできません。

そうして全部喋った後、おにーさんは少し考えて、

「——よし、ほいじゃよろしくな。」

承諾してくれました。

やった！　近くで見れば、何か分かるかもしれませんし、何より、一人はちょっと心細かったんです。

これからの旅路、少し楽しみになってきました。

とりあえず、ルリアンナさんが言っていた魔王？　パラダイスさんのお家があのお城だそうで。

そっちを目指して、いざ出発です！