メルンテーゼ初日の日記
ラルフさんは手加減してくれたのか、戦闘力がたったの5だったのか分らなかったのよ。ただ、精霊さんの力がここは弱いのか、体が重いのよ。しばらくは福ちゃんのサポートがいることになりそう。

「福ちゃん、アタイもエンブリオ契約したーい！」
ここに来てエンブリオ契約をささっとここにいる神様と契約したのは福ちゃんだったの。何だか、契約って字面がかっこよかったから、アタイも結びたかった。
「・・・お前に契約方法は教えない。悪用するし。」
福ちゃんが陰気な顔をして、人差し指の絆創膏を神経質に弄繰り回しながらそういったので、るる、ガイドブックをみたのよ。ええと、契約者には少しの生命力—
福ちゃんが何故か、羽が大量に突き刺さった状態で倒れてたけど、気にしないのよ。全く、相変わらず、勝手なんだから！生命力を削るなんて、危ないことして又おかしくなったら絶対に許さないのよ！というわけで契約方法も分ったのでアタイもエンブリオさんと契約を結びましたー。これでアタイもいっぱしの探索者だね！あ、れ、どこかでみたことがあるような顔だなあ。

見た事のある顔といえば、福ちゃんの家のメイド長までもが福ちゃんを追いかけてきたのよ。福ちゃんってヴムヴムとベーゼアさんがいないと本当に駄目な子なのね。

福莉日記
初陣はまあ、こんなものか。当たるかどうかが能力値によらず博打って言うマナの流れはいただけないが、そこらへんはおいおい考える。
ええと、ヒナにエンブリオ契約のことを話したら、確実に怒るよな。初日にちょっと、人差し指を切って血を与えただけだけど。自分の身体を粗末にするなーって呪文みたいに唱える奴だから。自分のことは棚に上げてさ、いつもぼろぼろになって帰ってくるのをみて、僕がどう思ってるか考えたことはきっとない、絶対にない。
そう考えながら本を括っていたら、ヒナにエンブリオ契約のことについて聞かれたわけだけど、絶対、教えるものか。エンブリオ契約よりももっと大量の生命力を消費する行為、誰が望むって言うんだ。
直後に空中から羽がスコールのようにばら撒かれて、鬼のような顔をしたヒナの顔がぼんやり目に映った後の記憶が、無い。

目を覚ましたら、姉貴とヒナが談笑してました。なにこれ。
「あ、福ちゃん、アタイもエンブリオ契約結んだの、これからはアタイがエンブリオ契約結ぶからね！フェアリーさんだって、仲良くしてあげてね。」
「ふぇありーだにゃん、よろしくだ—」
姉貴の首根っこを掴み、外へ引きずり出した。
「てっめえ、よくもまあ、僕の前にぬけぬけと姿を現せたものだな！後、姉貴はフェアリーじゃねえ、悪魔だろう！」
「土着の宗教を悪魔視するのはいけないとお姉ちゃん思うの。」
「貴様ら親子がやったことを忘れたのかよ！」
・・・奇妙には思っていた。周りの時間が流れていくのに対して自分の体が一切成長しないことに。髪の毛は伸びていくものの、爪の類は一切伸びないことに。
・・・頭に魔法を撃った忌々しいあの日に、僕は忌々しい祝福をどうやら受けていたらしい。治療の一環と称された呪い。「不老の呪い」。要は運よく信託者を見つけたから、寿命で殺さないための処置だと僕は考えている。・・・このことを考えたときヒナの顔がちらりと脳裏を掠めたが、何故かはしらない。老衰をしない身体、成長もしない身体、一生、瘴気を薬で押さえ込むしかない身体・・・。こいつらの勝手で僕の人生は狂いっぱなしだ。そして、それをこいつらは笑顔のうちにやってのけてるわけだから、悪魔といって良い。
「お姉ちゃん、福ちゃんとヒナちゃんが心配だったのよ。」
「漫才がみたかったってのが本音だろ？」
にたぁと嫌な笑いが姉貴の顔に浮かんだ。・・・肯定とも否定とも取れない時にこの女はこういう顔をするのを僕は知っていた。姉貴の真意は測りかねるが、契約を結んでしまったし、追い返すわけにもいかないだろう。どの道、積だ。肩をすくめる。
「勝手にしろ。」
そして、メイド二人が僕を追いかけてきたのか、ついてきたわけだが・・・。いまさら追い返すわけにもいかないというか・・・。追い返すとするじゃん。セヴィのほうは何とか言いくるめられそうなんだが、イアのほうは恐らくのらりくらりとかわされてついてきそうなんだよなあ・・・。イア単体のほうが正直怖いっていうか、セヴィの面倒を見るのに一生懸命で居てくれたほうが僕も楽なんだよな。アイツ苦手なんだよ、姉貴みたいで。
「お嬢様ー！」
うん？いやーな声が聞こえるぜ。ま　さ　か。

降りてきた子供をみてそんな感想を抱く。
でも少し天使とは違うなとおもいつつ

そういってスーツをめくって懐や腰をみせる。それらしいものは見当たらない。

後ろから、貴方たちに声がかけられる。
振り返ってみると、そこには長身の女性型アンドロイドが立っていた。

どうやら、自律人形関連で情報を持っているかもしれない、と判断したようだ。
アンドロイドはどこか期待するような目で貴方たちを見ている。

なんとも疲れ切った口調でぼそぼそと答える。

嬉しそうな福莉に苦笑し、素直に嬉しいというヒナの頭をわしゃわしゃ撫でると、まぁいいか、と呟いて気分を切り替える。

そう話しているところ、ちょうどヒナが顔を向けた方から、とててて、と軽快な足取りで獣人の少年が駈けてくる。

二人に気づいた少年は尻尾をふりふり首を傾げた。

福莉の援護射撃を徹底的にぶちこわす発言がぽんぽんと飛び出す少年に、本人はもう口を挟む力もないといった様子で憔悴しきっている。