（※戦闘シーンは結構割合）

ボクは伸縮自在なその毛の一部を伸ばして束ねると鞭の様に撓らせる。
シルクよりもきめ細かく柔らかで、それでいて鉄線よりも強固で切れない自身の毛は、自慢の防具でもあり武器でもある。
他にも隠し玉は幾つかあるが、大抵はこの自在に動く長毛の鞭がボクの唯一の武器だ。

長毛の鞭の展開を終えるとスィーがパタパタと顔の横へ飛んでくる。
ボクが武器の展開を行っている間、スィーは構えたままこちらを見通すラルフをじーっと観察していた。
そして観察している間に気付いたのか。スィーが目の前で聳え立つ大男ラルフの構えが甘い所を的確に捉え、そこを狙う様に指示する。

自信ありげに答えるスィーを信じて指示する箇所へ自身の長毛の鞭を打ち込むように振るった。

咄嗟にラルフはその拳で鞭を打ち落とされるが全てとまでは行かず、幾つかの鞭撃が狙った箇所へと打ち込む事が出来た。
鞭特有の大きな音を立ててラルフに命中すると低い呻き声を漏らしその巨体がぐらりと揺れる。
スィーの的確通りにそこが彼のウィークポイントだったようだ。

感心して気を緩ませていると、その隙を見てかラルフが咆哮を上げてこちらへと突っ込んできた。
その大きな咆哮にびくりと臆してしまったボクは、避ける事が出来ずにその身に彼の一撃を受けてしまい吹き飛ばされる。

見た感じからして手痛そうな一撃に見えたが、実際に受けてみるとそれ程痛くは無かった。
いや寧ろ痛くならないようにわざと当たる手前で勢いを殺していたようだ。
……もしかして手加減して貰っている？

見た目以上にダメージが無いボクの様子に安心しているスィーもその事に気づいたようだ。
とはいえまだ戦闘中。油断は先程の様な目に逢いかねないと、すぐさま体勢を立て直して攻撃に備える。
しかしラルフはこれ以上はやり合う気は無い様で、軽快な声を上げながら構えと殺気を解くと軽く拍手を打った。

呆気に取られるボクとスィーだが、少し前までの殺気が一切感じられないので模擬戦はどうやらこれで終わりのようだ。

どっと疲れた気がする。
そもそもボクは戦闘型じゃないのでこういう戦闘はやはり慣れない。

気が抜けて浮遊しながら潰れるように平べったくなるボク。ぐったりする時のポーズである。
そんなこちらの事もお構いなしでルリアンナとラルフは何かを話していると、何かをこちらへ手渡してきた。

……紅い花びら。
それはネクターと呼ばれるこの世界では無くてはならない重要な花の花びらだ。
その花びらを幾つか受け取るとラルフに頭をガシガシと撫でられた。割と痛い……。

更にルリアンナから彼らの名前が付いた物資を二つ貰い受けた。
…何故、彼らの名前が付いた物資が？
と、疑問を抱かずにはいられないが考えるだけ無駄な気がしたのでさっさと懐に仕舞う。

そんなこんなで一通りの事と簡単な挨拶を済ませると、ルリアンナとラルフの二人は早々と次の一揆参加者の所へと去っていった。

スィーのその意見に激しく同意する。
しかしあんな感じで二千以上の参加者を相手して周ってると思うと、実はとんでもなく凄い人達ではと思ってしまう。
……性格はどうであれ。

ともあれ、これで晴れて一揆参加者の一員となったボク達。
早速あの聳え立つ巨大な城へ目指して進んで行こう。

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[平原エリア]広庭

城門を潜り城が見える道を暫く進んでいると、大きな広庭なる場所に入った。

幾つもの花壇が並び、一切の荒れも無く細々まで手入れが行き届いている。
見ている者を惹き込ませる程に美しい色彩豊かな庭園が遥か先々までへと続いていた。

様々な花に囲まれてスィーがやや興奮気味で声を荒げていた。
ふわふわとあっちへこっちへと飛んでいっては花の香りに惚け顔で酔い痴れるスィー。
どうやら花の香りは彼女にとって好物の様らしい。

……そういえば一部のフェアリー種・ピクシー種では、
花の蜜や花粉を用いて作る〔蜜酒〕と呼ばれる秘伝の製造技術を持っていると知識で聞く。
その様な技術を持つ一部の種では、遺伝的に花の香りを強く好むとされるらしい。
もしかしたらスィーもその系統の種なのかもしれない。

改めてスィーを見てみる。

あ　か　ん　。
涎を垂らして完全にトリップしているスィー。
というか、これは最早好みとかそういうレベルの物じゃない。麻薬か類する何かか…。

兎に角、このままでは非常に色々と…主にスィーの女としての尊厳的な何かが危ないと感じたので、
急いでスィーの正気を取り戻させる事にした。


………………

何とかスィーの正気に戻す事ができた。
が、先程の痴態をボクに見られてしまったと半泣き気味で自己嫌悪に陥っているようだ。
ま…まぁ誰にでも一つや二つ位こういう所はあるさ！ボクは気にしないよ！

スィーは、じわぁと目に涙を溜めて何時でも泣き出しそうな表情になる。
泣き出しそうになるスィーを何とか泣かせない様にしようと考えるが、上手い事思いつかないボクは慌ててあたふたする。
正直言って、今まで森の中で独りっきりだったボクにこの事の解決は超高難易度クエスト級に匹敵する。
コミュ障舐めんなー。毎回話しかけようとしたら殺されるのがボクです。

そんな事を内心叫んでいる内に本当で泣き出す５秒前になったスィー。
壮大にパニくったボクが咄嗟にとある一言を口に出してしまう。

この一言が、後にボクの首を絞めるかもしれないという事に気付くにはそう遠くなかった……。


───────………


──あれからボクとスィーは広庭の道を延々と進んでいる。
スィーは何とか泣き出す事も無く機嫌も戻り事無きを得た。

いや寧ろ前より上機嫌である。そして以前に増してボクの頭の上に乗ってくる。
頭の上で寝転がってはスィーは頬をすりすりと擦り寄らせてくる。どうしてこうなった。

……咄嗟とはいえ、「貰い手が無かった時はボクが貰ってあげるから！」
なんて無責任な事を言わなければよかったかもしれないと今になって深々思ってしまう。
流石に今となっては発言の撤回も難しい……撤回しようとしたら色々酷い事になりそう。

ボクの頭の上で鼻歌を歌い笑みを溢すスィー。
しかし時々こちらに寄せる瞳には何やらギラギラした得体の知れないものを感じる。

……一瞬、何かを感じて寒気がしたが多分気のせい。…と思いたい。

改めて思うとあれは半分くらい質言を取る為の演技の泣き真似で
実は彼女は結構腹黒いのではないかなんて、決してそんな事思った訳じゃないですよ。


……何となくだが、この先の道程は前途多難になりそうだと思った。

もっふもふの毛皮にじゃれつかんと、黒猫が飛び出てきました。