「だからね、あのラルフって人はちょー手加減してたんだと思うんだ、そりゃちょっと戦っただけで本当の実力がわかるほど達人ってわけじゃないんだけどさ、ここに来ている人全員と戦ってるんだとしたら、その分加減してるんじゃないかなってさ、そう思わない？　おじさん」
「まーフィーナちゃんぐらいなら手加減しても余裕だろうからねぇ」
　金髪の少女、フィーナ・タルムードは両手に持った木の棒を振り回しながら質問をぶつける。
　おじさんと呼ばれた中年の男は片手に持った木の棒でそれらを弾き飛ばしながら回答する、その言い方が気に食わなかったのかもしくはあまりに簡単に弾かれたためか、フィーナは不満をあらわにしながら攻める。
「グレイおじさんはもうちょっとコミュニケーションを学んだほうがいいんじゃない？　少し言い方ってものがあるでしょー」
「じゃあそれも一発入れられたら考えてみるよ」
　グレイ・テンフィールドは光のない目で攻撃を見きると先程より強く弾く。体勢を崩された少女の頭上から棒を振り下ろして当てる、ぺちりと情けない音がした。
　まぁ時間は掛かりそうだけどねぇと笑われてフィーナは頬をふくらませる。
　一発入れられたら。この掴みどころの無い男はいつもそうだ。自分が計画を話したら面白いから協力すると言ったが自分のことはほとんど話そうとしない。
　さらに一発が限りなく遠い。武器を使うのは苦手と言いながらまだまだ底を見せる様子はなかった。
　記録係として紹介された時から彼の情報を集め出した。人生も行動もフィーナの先を歩いたであろう者、世界に望まれなかった革命家、罰を受け続ける男。
　正しかったのは世界なのか、それとも彼らなのか。彼女は知りたかった。そのためには
「ま、力を付けないことにはね……なんともならないっていうか……とりあえず今日も頑張って行ってみようかな……」
　ぐっと背伸びをして彼女は自分を準備する。自分が演じる殻を準備する。
「さぁ行くぞ！　世界を平和にするために！」