ほろ馬車の荷台、そこには奪い取った商品が所狭しと並んでいる。
盗賊集団の蓄えや、賞金首の装備一式など、悪人から奪った数々の品々。
それらを表や裏の市で捌く…彼等が闇商隊と呼ばれる所以だ。

だが、そんな商品の中、荷台の隅にひっそりと、低めの机が置いてある。
それも一応は曰くつきの品なのだが…その場所がユリアの低位置だった。

「…あーくそッたれ、コレも駄目かよッ！」

何やら机に向かっていたユリアは、そう叫ぶとペンを放り出してため息をついた。

『どうした、ユーリ。…また失敗か？中々光魔法はレパートリーが増えぬな』

禍々しい天使、ダンタリオンが机の上を覗いて、声をかける。

「シャドウボール、良い魔法だと思ッたンだがなァ…正規詠唱をルーンの魔法陣に翻訳して陣反転までは良かッたンだが、意味抽出が出来ねェ。文法的に問題があるンだ…数理魔法解析にかけようとも思ッたが、こりゃ駄目なパターンだ。」

『…難しいものだな。詠唱した魔法の効果を反転するという曲芸なのだから、条件は厳しくても仕方がないとは思うが…まぁ、良くその指輪だけでも作ったものだ。』

ダンタリオンが見たのは、ユリアの右手にはめられた銀細工の指輪だ。
細工の形、素材の成分、刻まれたルーンが複雑に意味を作り出し、常にユリアに作用する魔法を発動させている。

魔法の効果は、独自の変換によって詠唱した闇魔法を光魔法へ変換すること、なのだが…
上手く変換出来る闇魔法は、中々無いのだ。

『…ちなみに、その指輪だが…変換不能な闇魔法を唱えた場合はどうなるのだ？』

「唱えた魔法が変換魔法陣を介して反転、そこまでは良いンだけど…反転したモノは魔法の意味を成さず空中分解、結果膨大な魔力が魔法に生らずに急にその場所に現れ、勝手に反応…」

ユリアは最後まで言わずに、口だけ「ボンッ」と動かした。

『何でそこまでして光魔法にこだわるんだ、ユーリ。いや、先程から見ているが、主の闇魔法の技量は比類無いだろうに。』

その声を聞いて、ユリアは少し笑う。

「まァ、色々あンだよ。」

切っ先の無い剣に掘り込まれたルーンが、赤く光った。

フルートの音が聞こえる…