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この世界は、複数の世界から成っている。
その事を知っている人は意外と少ないのかもしれない。
世界の間を移動する手段は限られている。隣の町に行くように、気軽な気持ちで移動できる人は少ないだろう。
その少女もそうだった。
彼女は他にも世界がある事は知っていたが、自分が生きる世界から外に出るという事を考えたことがなかった。
彼女が、師と呼ぶ事になる人に出会うまでは。

少女は、光の中にいた。様々な光が目に入り、さらに浮遊感が少女を襲う。
初めての経験で酔いそうな気持ちをなんとか堪え、いつまでこの時間が続くのかと考えていた。
そして唐突にそれは終わり、目の前には草原が広がっていた。
少女は軽く深呼吸をして気分の悪さを払い、改めて草原を見た。
よく見ると、自分が知っている植物もあれば、見た事もない植物もある。
地域によって生息する植物や動物が違うのだから、世界が変わっても別な植物があるのは当然の事だろう。
動物の方はこれから見る事になるのだろうが。

「いやー、世界を越えるのはなかなか大変だったね。アルカ」

　アルカと呼ばれた少女は、頭上から聞こえた声に対して、驚いた様子も見せずに返事をした。

「ん、まあ、ね。師匠から慣れるまでは大変だと思う、って聞いてはいたんだけど」
「なるほどねえ。よいしょっと」

　頭上の声の主は、アルカの頭から飛び降りた。
　それは白い毛玉だ。明らかに人語を話していた兎。

「うん、確かにこの世界は僕たちに近い存在がいるね。ええと、エンブリオ、だったっけ？」
「そう、エンブリオ。フィーたち精霊に近いとは思う。実際どうなのかは、契約してみなきゃ分からないけどね」

　このうさぎの名前はフィー。ただのうさぎというわけではなく、所謂精霊であり、アルカと契約した使い魔のような存在でもある。
　フィーに言わせれば姿形なんてどうでもいい、らしいのだが。

「そのあたりも含めて、いろいろ情報収集しなきゃかな」

　アルカは緑がかった銀色の髪を整えながら、遠くの町へと目を遣る。
　ひとまず、目的地はあの町だ。

「そうだねぇ。どっちに助けに入るか……それも見極めなきゃならないよね」
「うん。ひとまずは民の側に助けに入ろうとは思ってるけどね。……そのためにも、とりあえず仲間を捜さなきゃかなぁ。一人では動きづらいし」
「見つけられる？　アルカって友達いないし。」
「……うぐぅ」

　痛いところを突かれ、アルカは言葉に詰まった。
　しかし、軽く首を振って拳を握る。

「大丈夫！　師匠と訓練したし、フィーもいるし」
「師匠も大概だと思うけどね。まあ仕方ない、僕の方でもフォローするよ」

　確かに師匠も友達は少ないと言っていた、とアルカは思い出す。
　もっとも、あの外見では話しかけづらいとは思う。変な格好をしている訳ではないが、近寄り難い気配はあった。
　それに比べれば、とアルカは自分の格好を見下ろす。
　そこまで変な格好ではないはず、と自分に言い聞かせる。

「……よし、いこっか」
「はいはい」

　一人と一匹は、町に向けて歩き出した。



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「んー、これがエンブリオの力、か……」
「正直、現状ではつらい物があるね」

　ラルフとかいう男と戦った後。
　アルカとフィーは、戦いの事を思い返していた。
　能力的に恩恵を受けている気配は感じる。技術的にも、今まで使えなかった魔法が使えるようになった、というのもある。
　だが、しかし。これだけで戦えそうかと言われたら怪しい。

「やっぱ、私の魔法の腕がまだまだ足りてないのかなぁ？」
「それはまあ、あるとは思うけど。一応元々師匠に教わってた分でなんとかなってたし、これから鍛えていって、かな。あとはいざとなったら……」
　
　フィーはそこで言葉を切った。
　そこに何が隠れているか、アルカにはすぐに分かる。
　
「剣を使え、って？……ま、誰も見てないところでなら問題はないし、生き延びる方が大事ではあるけど。　でも、できるだけ魔法でなんとかしたいかな。これでも魔女の弟子だし」
「ま、そのときが来たらってことで」

　フィーはそういったが、自分の技量のなさにアルカは溜め息を吐いた。
　この先大丈夫なのだろうか。

　白い服にマントの少年がそちらを見つめていた。
　視線に気付くと頭を下げてみせた。
　傍目には両手両足の拘束でまともに動けるようには見えない。

　早口でまくし立てるように声をかけてくる。
　……気のせいか彼の口は動いていないように見えた。

剣を持ち出し構えようとして、ふと気付く