「意外とよゆーだったねえ」
「ですねー」
軽く汗をぬぐいながら陸月は改めて城を見上げる。
最終目的地が目の前にあるのも変な感じではあるが、巨大な城はその敷地もデカいのでそう簡単には入城出来そうもなかった。
辺りに視線を向けると他の一揆参加者も各々で動きはじめていた。
「そういやさっきの人坊ちゃんに会えたかなー」
「目つき悪いさんですか？」
「そうそう、執事って主人に対してあんな事言っていいのかねえ」
「うーん…信頼されてたらいいんじゃないです？」
「そうかもねー」
他愛ない会話をしながらいきかう人々をながめていると、ひらりと目の前に紙が一枚落ちてきた。
拾い上げて見てみるとそこには陸月の見慣れた文字が並んでいる。
「お？読める…けど内容がわかんねえ」
「あのひとっぽいですよ？」
ナズナが指差す方向を見ると今にも崩壊しそうな危ういバランスを保った書類の束をたずさえた男の姿。
「すいませーん」
声をかけながら男に近付くが男は聞こえていないのかわずかに俯いたまま反応しない。
不思議に思いながら男に近付き、後ろから覗き込んだ。
「かわいい子ですね
「そうだろう？うちの十和子ちゃんは……って、な、なんだいキミは」
驚きながら振り返ってきた男に陸月は紙を見せる。
「これ、違うかなーって」
「……あ、ああ、ボクのだね。ありがとう。助かったよ」
よくおとしちゃうんだよねえ、とのんびり言いながら書類の束に紙を戻そうとすれば

バサッ

見事に書類の束が崩壊した。
慌てて集める男を手伝うように陸月も書類をかき集める。
「ああ、すまない」
「いやいや」
二人がかりで書類を集めきる頃には、辺りの人の数もまばらになっていた。
「すっかり出遅れてしまったねえ」
「まあ、マイペースが一番ッスよ」
そんなことを言いながらお互いの視線があった。
僅かな沈黙の後、陸月が堪えきれずに軽く笑ってしまう。突然の事に驚く男にすいませんと謝罪すると
「いや、何か間が耐えられなかっただけで……あ、オレ江田陸月って言います」
「何だい、名乗りも唐突だね……ボクは時枝史乃だよ」
「じゃあ、シノさんかな？折角のご縁だしオレと一緒に一揆いきません？」
「………うん、そうだね。１人は危ないし…陸月君は怖くないし…お願いしようかな」
２人は再び視線を合わせれば今度は固く握手をする。
するとその手にナズナが手を重ねてきた。
「ナズナも仲間に入れて下さいよぅ」
「……陸月君、これは？」
史乃が不思議そうにナズナを見やり、陸月が説明をはじめようとしたその時

「何タラタラしてるんだ？」

　突然聞こえた声に２人が視線を向けるとそこには赤毛の男の姿。
ずんぐりと近付いて２人の顔を交互に眺めると溜め息を吐く。
「何だか揃いも揃って弱そうだな…まあいい、さっさといくぞ」
「あのー、人違いじゃ」
男に向けて陸月が恐る恐る訪ねれば男は歩みを止め、ぎろりと睨みつけた。
「俺様を待たせた挙げ句におかしな事言うな…？だがな、貴様等の主張など知らん。精々俺様の壁にでもなるんだな」
男は言うだけ言うとツカツカと先にすすんでいく。
陸月と史乃はお互い顔を見合わせた。
「ど、どうしようか…」
史乃は若干泣きそうになりながら訪ねる。
陸月は少し悩むように眉を寄せるがひとつ頷いて
「まあ、旅は道連れって言うし！行こうかシノさん！」
そう言いながらにっこりと笑った。

筆と紙を手にとって従者の似顔絵を簡単に描き上げる