腕試し、と呼ぶにはそれは簡素過ぎた。担当した大男は見かけに寄らず脆かった。
・・・まあ、聞いた話ではあるが2000人弱の参加者を其々試して行ったと言うのだから、止む無し。

この界隈、見かけとその力量が異なると言うのは良く有る話だ。
特に外部世界から参入した者は、其々の過ごした世界律の影響を大きく受けている。
この世界基準で少年少女と目される者が、過大な力を持っている例など枚挙に暇が無い。

故に試験は必要ではあるのだが。
もう少し、人員を確保しておいても罰は当たるまいに。


さて、次に必要なのは当面の目標だ。王城攻略を主眼に据えるとは言え、敷地は広大。
何かしら目標らしきものが見えなければ、烏合の衆は散り散りになってしまうだろう。
適当に犠牲者・・・もとい、槍玉に挙げる標的を示さねば纏まりはし無さそう。

とりあえず私は、平原へと歩みを進める。
道中、山や森林へと進む者の姿も見たが——鎮魂歌でも捧げるべきだろうか。
この辺り、昔にも。
そう、随分昔にも感じた事なのだが。

無謀と勇気を履き違える者は何時も現れるし、私はそれが少し羨ましい。
無知故に先に先に進むことが、必ずしも悪いとは限らないと知っているから。

貴女は知っている。世界を渡り”悪”を葬る仮面の男、怪傑Xを。
貴女は知っている。少しひねくれただけの、ただの青年を。

男は知らない。異界を駆け抜けた仮面の己を。
男は知らない。いつか話した貴女の事を。

どこかで聞いたことのある声が、貴女の耳に入ってくる。
青年は見えない何かに向け、大きな小声で話している様子だ。

（驚きと、そしてそれ以上の喜びを。声をかけてきたあなたに精一杯伝えるような、そんな笑い声を返す青年。
その反応は知り合いのいない、見知ったものすらないことが多いであろうこの世界で決して心細かったからこそのものではない。この銀髪の青年は、単純に知己であるあなたに会えたことを喜んでいるようだ。）

（彼が言い終わるのを遮り、只の挨拶回りだと答えるあなた。当然だ。あなたは彼と違い数多の世界を回り、同じように数多の知己がいるのだろう。あなたが何を目的にこの地に来たかはわからないが、それに頼るのは悪いことにはならないはずだ。）
（だからこそ一人でも多く声をかけたほうがいい、一人一人に時間を割かず、多くに。
そうして、一方的に会話を切り上げ立ち去って行くあなた。——しかし、同じように知己を頼ろうとするのはあなただけではない。）

（残った匂いが消える間もなく、青年はその日に輝く銀髪を揺らし追いかけてきた。）

大勢の人で賑わう城の庭。機をみて声をかけてくる男が１人。

程ほどにたるんだ頬。人懐こい笑み、という言葉が実に似合う男である。しかし銀髪と拘束帯を近くで確認すると不思議そうに眉を寄せた。

男は笑みを絶やさず続ける。

ぽん、と手を叩く。どこかの怪しい商売人のように。

じぃ、と漂流者の顔をのぞきこむ。美しい瞳があるだろう箇所に視線をあわせて。

怪しい男が差し出し置いていったのは一枚のチラシ。

『女性に便利をお届けするキーン商会、会員様及び従業員募集中！』

裏には地図が記載されている。同じ庭で距離も近いようだ。暇なら覗いてみるのも一興……かもしれない。

　
　　　　　　右手に、魔術力場を形成した。

　
　　　　　　興味深そうに手に取った。

　
　　　　　　右手に、魔術力場を形成した。

　
　　　　　　呼吸を整えるように、歩みを止めた。