その人に声を掛けたのは、私にとっては必然と言ってもよかった。

振り向いた服装は、やっぱり巫女服(のようなもの)だった。
私の家に、まだ活気が溢れていたあの頃。家に仕えてくれていた人や、修業を積んでいた人たち。
みんな和装で、女性は巫女服だった。勿論例外もいて、その例外が他ならぬお母さんだったけど……

と、少し話がそれたので戻そう。

今、私は一揆に参加するためのパーティメンバーを探して歩いていた。記憶喪失の先輩は宿の部屋に放り込んできてある。
あの様子だと本人的には安定している感じだろうけど、私としては心配で仕方ない。
一揆に参加しないことには元の世界に戻るきっかけも掴めないだろうと決心はしたものの、二人では戦力に不安がのこるのは否めない。不安定な先輩の側に知らない人間を置くリスクも考慮に入れた上で、それでもこの世界に詳しい人に助けて貰う必要があるだろう。
元々依頼解決部では良く知らない相手に命を預けることなど日常茶飯事だったわけで、そう考えると少しだけ気は楽になった。
そこで、ルリアンナさんから聞いたネクター取得者が集まっているという広場にやってきたのだが……

ここに来るまでにもおそらく同じ世界や、性質をほぼ同一とするであろう世界から来たと思われる人は沢山みたが、思わずここまで反応してしまったのは初めてだった。そして——

——その結果がこの礼を欠いた態度である。いくら明らかに年下に見えるとはいえ、反省。
そもそも外見通りの年齢なんてものは人間視点でしかないのだということは学園生活で身に染みている。

何となく敬語になってしまう。年下や同じ学年でも、自然と敬語が馴染む人が何人かいたことを少し思い出した。

名前もやっぱり和風、というか明らかに日本のものだったが、そのあとに続いた言葉は予想を結果的にはいい意味で裏切るものだった。

意表を突かれた私は少し間の抜けた声だったかもしれない。

そうですか……と落胆し掛けたが、慌てて思い直す。当初の目的を思い出せと自分にツッコミを入れる。

なら、と。気合を入れなおし言葉を繋ぐ。

先輩のことをどう伝えようか迷ったが、普通にしている分には問題ないだろう。

何でしょう、と身構えた私に飛んできた質問は、内容こそ予想すれその聞き方は斜め上。

あまりにもな言い草だったと後になって思うが、不思議と嫌悪感は湧かなかった。

ほう、と呟きながら、こちらを見据えたままのユライさんを私も真っ直ぐ見据える。

くくっ、とユライさんは笑う。

それが、謎しかない、掴み所のない、愉快なことが好きな。

でも何処か寂しさを感じさせるような——

——ユライさんとの出会いだった。