「そういや、アイツ何してんのかな。」

食後のお茶を飲みながら、九が言う。

「アイツって誰？」

お茶をふーふーしながらねこっぱちも答える。

「ほら・・・アイツ・・・何もないところで転んでワームホールに落ちて別世界に飛ばされた、あの監査部のおっちょこちょい。」
「あぁー、テン？」
「そうそう、テン。アイツ、ちゃんと撤退できたのかな？あの世界は閉じられた世界なんじゃなかったっけ？」
「閉鎖って言うか一方通行。入れるけど出れないって言うやつ。ボクたちの時みたいに通信事業部が迎えに行ってると思うけど、出口がつなげなかったら閉じ込められたまんまだろーね。」

ちょうどいい温度になったのか、やっとコップに口をつける。
九もまったりとお茶を飲む。
しばしの沈黙。

「・・・けど、あそこってテンが飛ばされたときみたいに突発的に無差別にワームホールが開くんでしょ？テンのことだから、お迎えが来る前に、また何もないところで転んで別の世界に飛ばされてるんじゃない？」
「・・・ブブッ。ありえる。アイツ、全然運がなさそうだもんな！」
「まぁ、それでボクの分身もまた引っ張られちゃってるかもね。」

やれやれ、とため息をつく。

「あ、そうだった！」

九が手をたたいた。

「あのオトボケ野郎があっちに飛ばされたとき、ぱち、オレの記憶が正しければ・・・にゅるんって分離してたよな・・・」
「うん。テンにボクのキュートな尻尾を引っ張られて・・・1/4くらい持ってかれたかも。もったいない事したなぁ。」
「・・・尻尾引っ張ると分離すんのかよ・・・お前つくづく得体知れないな・・・」
「ふふふ、大したもんでしょ、ボクも。」
「誰も褒めてねーよ！」
「イチジクがジャイアントスイングされる時とか平気だから、命の危険があるときだけなのかも。種の保存ってやつなのかなぁ？」
「なるほど・・・」

小首をかしげるねこっぱち。九も腕を組んで考え込む。

———が。

「種の保存か・・・・・・ぱちのお父さんとお母さんとかちょっと想像できないな・・・ちんちくりんのネココウモリが３匹・・・。」
「似てるかどうかはわからないな。会ったことないし。」

ねこっぱちは軽く肩をすくめる。

「何せボク達の種族は、子供を産んだら魔力のあふれる場所に置いていくからね！」
「適当に育ったところで別の場所へ移動する、住処を転々としていく流浪の種族だって、前に言ってたよな・・・」
「そーなんだよねー。」
「そーやって子育て放棄するから、オマエみたいないちいちムカつく事言う性格になっちゃうんだろうな！」
「・・・・・・」
「オマエさ、あのヒトが来て色々教えてくれなかったら真正カス野郎だったよな！良かったな！」

そこまで言ったところで、心なしかそわそわした様子で自分を見ているねこっぱちに気がついた。
九は眉をしかめる。

「何だよ！キモイな！」
「いや・・・うん、そのとおりなんだ！」

あのヒトの事を憶えてるんだ、と嬉しげに呟いた声は九には届かない。

「ふん！やっと、お前の性格の悪さを認めたか！」

満面の笑顔の九は勝利の杯を掲げるようにコップを高く掲げる。

「へ？何のこと？」
「そのとおりだって、今言ったじゃん！」

コップを突きつけられたねこっぱちは嬉しそうに胸をそらす。

「あー、ボクくらい可愛いと、一匹じゃもったいないって事でしょ？」
「そんな事、一言も言ってないだろ！」
「まぁ、ボクってありえないくらい可愛いしね。」
「言ってないっつうの！ってか、オレの方が可愛いだろ！いいかげんにしろ！」



こうして、いつもどおりの「どっちが真に可愛いか」の言い合いがはじまったのだった。