同行者は自分を除いて７名。
人間、天界人、エルフ、妖怪（？）付き人間、とバラエティに富んでいる。

意外にバランスが整っているのは僥倖か。
顔見知りがいたことにも少々驚いたが、これは世話になっている家の従者長である少女の依頼。

彼女ならそういうこともやってしまうことだろう。
こちらの心境や、秘めていることを見越した上で。

随分とにぎやかになった所帯に目を細め、クロカネは思い出す。






彼は材料として生み出された。
刀の、刃物の材料である玉鋼として。
だが。
そこで終わり。

母は…生みの親である鍛冶師はもう亡く、刀と成ること能はず。
居るのは家屋内ではあるが、彼はただ在るだけになっていた。
ただ一本一本の兄弟たちが盗られていくのをなすすべもなく見るだけ。

その中でも意図せず、しかし兄弟たちに宿った力の余波を受けた彼は徐々に力をつけていた。


影打の兄弟たちが全て盗られてしまった辺りで、彼の力は人化が可能になる程度にまで強まる。
人の姿を取り、まずは母を埋葬した。
なんとなしに墓を作り、続いて小屋を確認。
家屋としては利用できるが、すでに壊された鍜治場と炉は修復不能。
母が寝起きしていた部屋は金目のものは盗られていたものの、書物が残っていた。
不思議と学ぶこともなく文字を読むことが出来たのは僥倖、ゆっくりと目を通すことにする。

そこには、刀についてや鍛冶師についての心得が書かれていた。
本から読み取れたのは

ひとつ、藤原の姓を名乗ること。
ふたつ、女はたたり場にも鍜治場にも足を踏み入れてはならない
みっつ、女であろうと踏み入れたくば、後述の決まりを守ること。
よっつ、可能な限り真打を持ち主に渡すこと。

それ以降はにじんで読めなくなっていた。
後述された決まりについては破られており、辛うじて決まりの書かれたページが存在したということだけが前後から読み取れた。

彼は、そこから藤原の姓を名乗ることにした。

自分の存在は玉鋼というものということを理解はしていたが、基になるのは砂鉄。
鉄は、『クロガネ』と読むことを知る。
が、そのままを名にするのはいささか詰まらない。

そのため、濁点をとってクロカネと名乗ることにした。


彼は母の住処を住居として生活する。
生活を始めてしばらく経った時、大雨の降った夜があった。
ひとりの少女がずぶぬれになって迷い込み、一夜を提供する。
話を聞くと、少女もまた妖怪であった。
自分の経緯をなんとなしに説明すると、もう１０００近い四季を駆け抜けてきたという。
翌朝、少女はまた旅立った。
お互い長い生の中、生きて会えたらまた話をしようという約束をして。

少女が泊まっていたときに、せめて髪をまとめればいいというアドバイスを貰う。
母の使っていた箪笥には髪留めに使われていた紺色の布紐が数本入っていた。
その中で使えそうなモノを取り出し、とりあえずと首後ろで髪を縛ってみた。
明るい色に少々暗めの色ということもあり、彼には見えなかったが少女は満足したようだった。
形見の品でもあるそれを、彼は大切に使っていこうと心に決める。


少女が去り、小屋の傷みが激しくなったために彼は外の世界へ歩みだす。
たたら場や窯は当に朽ち果て、永い眠りについた。
書物はそのままだが、形を保つことすら危うい家とともに朽ち果てるであろう…
彼を待つものはなくなった。

人の世に出て確認をすると、母を殺した大名が治めたとされる太平の世は既に壊れていた。
時は明治維新の時代。
母が亡くなってから、少なくとも２７０年が過ぎ去っていた。



その後は人の世に紛れ、戦争の時代を越え、現代に行き着く。
ふと気になって兄弟たちの行方を探ってみると、『村正』と銘打たれた妖刀と成っていることが分かった。在る刀は徳川の血を引く者の血を吸っていた。また在る刀は銘を削られ大切に保管されていた。

名刀、業物の類を評する書物を見ると、必ず兄弟の名が連なっていた。
但し…妖刀であるとして。
そんな中に母の持っていた書物に記された藤原の姓をもつ業物を見つける。
縁かゆかりがあるのだろうか…とも考えたが、もはやそれを追う気は起きなかった。



更に時は過ぎ、ひとつの問題にぶつかってしまう。
人間があまりにも多くなってしまったが故の弊害。
存在を疑う者がでたことから、不法入国者として捕らえられてしまう。
抜け出すのは容易だが、指名手配をされてはたまったものではない。
情報化の凄まじい世の中で、一度そういった対象にされてしまうのは本位ではなかった。
そこへ現れたのは、救いの女神ではなくひとりの少女。
いつだったか一宿した、妖怪であった。
少女はあれこれと書類を用意してつきつけ、彼を無罪放免とした。

何故ここまでしてくれたのかと問うと、少女はにっこりと笑ってこう答えた。

　『一宿の恩を返しただけだよ。見つけたのは本当に偶然だったけれどね。』

泊めた彼ですら忘却のかなたであったにもかかわらず、少女は覚えていたのだ。
そのまま、彼は黒山家へと誘われる。
聞けば、同じような境遇の妖怪が共同生活をしている場であり、依頼をこなしては生活費を得ているという不思議な場所であった。
人の世に関わりたい者、理から外れて人の世に紛れざるを得なくなった者、様々である。

人と人外が同じテーブルで同じ釜の飯を食い、一つ屋根の下の同じ風呂に入る。
戸籍を取得することも可能であり、今では審査基準の一環として依頼をこなすこともあるそうだ。
個性的なメンバーが揃っているが、皆が皆良き同居人であった。
郷に入らば郷に従うとしよう…　彼はそう決め、身を寄せることを決意する。

打ち鍛えられるはずだった存在に成ることが出来なかったことを気にしていた彼は、とある結論を出す。
『自分が在った証を残したい』と。
何を成すべきなのか、何が成せるのか。

彼は、少女からの依頼を聞いて己の成すべきことを探すことにする。
まずは暴君を引き摺り下ろすことから。
そして、ともに戦う仲間たちから学ぶ。

そして見つけるのだ、自分が何を残し、何を成せるのかを。




チームは二つに分けられた。
前・中・後衛を考慮し、
第１チーム：オフィリィ　萌　トーコ　カルス
第２チーム：クロ　ヒート　風音　レナ
となっている。

今日は初めてのチーム戦、近間にいた同業者との練習試合もする予定だ。
一応の年長者として、無様な姿をさらすわけにもいくまい。

己に課した制約の元、得物である長棍を呼び出す。
まずは、と…猫の群れへゆっくりと足を向けた。

そういうと、オフィリィは手にしたタブレットを操作していく。