横殴りに吹荒ぶ雪。
後方の街の灯りは霞み、煙る。
旅人の足跡を消していく。
まるで、そこにははじめから何も無かったかのように

北の大地の夏は短い。
それでも、吹雪が吹くようなことは明らかに異常だ。
夏の吹雪。
天候は落ち着かず、獣たちも異常な行動を示している。

原因は、わからない。
王が搾取した結果なのか。
領主が、上手く取り仕切れていないからなのか。
この土地を守護するエンブリオに捧ぐネクターが足りていないせいなのか。

厳しいながらも豊かな大地に翳りが差している。
民の不安は、領主への不満となって向けられる。


此処は、リンテントポーゼ。
リント領とも呼ばれる、メルンテーゼ北部に位置する深い雪と氷に閉ざされた土地。
エンブリオの力なくしては人の生きていけぬ極寒の地。

高まる不満と不安を晴らすため、領主の一族の姉妹が立ち上がった。
ジヴィーテの姉妹。
領民を守るため。明日を勝ち取るために。
表向きは、そういうことになっている。


（私は、あの姉妹が何を企んでいるのかは知らない。
　妹の提案だと聞いているからそうたいした野心も下心も無いだろう。
　姉の方はそんな妹を守るためにとは言っていたが
　面白半分……いや、面白全部か。あの人は、だいたいそうだ。
　執務を押しつけ、大手を振って外に出る為の口実のようなものだろう。）


先頭を進んでいた人影が立ち止まると振り返り、後続の様子を確かめる。
その眼差しは白藤色の前髪に隠されていて伺うことは出来ない。

ミチエーリ・ガヴリロヴィナ・ガルテンジア。
リンテントポーゼ自警団の隊長の１人。
ジヴィーテ姉妹の護衛として同行している。
彼女がその任に選ばれたのは、姉妹とは乳兄弟だからだ。
故に幼い頃からその動向に振り回されている。
それは彼女にとっては当たり前の事であり、諦めて受け入れている日常。
ガルテンジアはジヴィーテ家に仕える魔女であり、乳母の家系だった。



ミチエーリは魔女だ。
呪われた魔女。
自らを呪った魔女。

王城の方を指さした
そこには数十人ほどの人だかりが出来ている

一方的に話を済ませると、手を振りながら去って行った…

40cmほどの大きさの人形がゆっくりと二足歩行で近づいてくる。

スカートの裾をつまみ一礼。

人形が急に宙へと持ち上げられる。
つまみ上げたのは、身長は170前後、青髪の耳長。

後ろから、やけに明るい声で話しかける影