不可思議なところに流れついて、しばらく経った。
メルンテーゼ。元素の世界。分割世界という概念をはじめて知る。
あてもなく、なかば死んだようにさまようばかりだった私は、どうしてか、世界とやらを渡ってしまったようだ。

この世界では、王、という権力者がいるらしい。
故郷の人々の在りかたとは、ずいぶん異なる。身分制度、というのはよくわからない。
いや、言葉としてはわかる。そういうものだと覚えはした。感覚として追いついてはこないけれど。
そしてとにかく、その王というのが、理不尽なほどのちからを民に行使できる、というのは理解した。
与えるも奪うもお気に召すまま、ということ。
何故か、喉が詰まったような気分になる。

思い出すのは父のことだ。
父はたぶん、かあさんの王だった。父にとってかあさんは、好きに奪ってもいい相手だった。
与えるつもりもないのに力尽くで奪われ続けて、そうしてかあさんは結局、いのちさえ奪われてしまった。

この世界の人々を見ていると、倒れ伏したかあさんの、最期の姿が目に浮かぶ。
黄昏の色に染まって投げ出された力ない腕を見てすっと血の下がった、あの感覚がよみがえる。
灼けつくような一瞬の感情は遠ざかっても、まだ、小さな熾火は胸に燻っていた。
その痛みに耐えられなくて、つい、一揆とかいう活動の勧誘に頷いてしまった。
我がことながら、そんなちからも意志もないくせにと呆れてしまう。
だからといって、後悔しているわけではないけれど。

どうせ、死んでいないだけの身だ。
一揆とやらに参加することでこの負い目から少しでも目を逸らしておけるなら、願ったりだろう。

木の陰に隠れて見ていたようだが、目が合った瞬間慌てて飛び出てきた

じーと頭の上のほうを見つめている。

顔を真っ赤にしながら、慌てている様子がとても可愛い。

そう言うと走って行ってしまった。