世界を越える事に慣れすぎていた。
　これまで渉った世界の数は200を越える。
　一瞬で通り過ぎた世界もあれば、十数年腰を落ち着けた世界もある。
　その先々で俺様は知ってきた筈なんだけどな。世界の理の強さというやつを。

　例えば、"竜は飛べる"という概念をもつ世界なら、陸生の竜でもい当たり前のように飛べるし、"剣は次元を切れる"という概念をもつ世界ならばペーパーナイフでも次元は裂ける。
　それが良い方に作用すればいいが、悪い方に傾くようでは話にならない。

　故に、"オヤジ"は剣の中に"世界"を内包させる手を編み出したわけだ。
　剣の中に、一つの世界の理と対等になれるだけのもう一つの"概念"を用意し、対立させる事でデメリットを打ち消す。そんな理屈だ。
　俺様もそんな"オヤジ"の発想をパク……見習って、似たような方式を己の剣に取り入れたワケだ。
　矢張り天才の俺様だ。出来上がった剣は完璧。意気揚々と次の世界へ渡ったのだった。めでたしめでたし、の筈、だったん、だが、なぁ？　詰めが甘かったらしい。
　目の前に、振り子のようにスイングする紅い尻尾が見える。
「あー、糞、なんだかんだで今までのオレのこしらえた中で最強の剣だったんだけどなぁ？　オイ」
　目の前の尻尾を掴んで頭の上からソレを引き摺り下ろす。
「ごしゅじんさまー」
　子供のような声でそんな言葉をのたまうのは一匹の火とかげ。サラマンダーと呼ばれる精霊のエンブリオ。
　そして、俺様の最高傑作である筈の魔剣の成れの果てである。
　そう、世界の理というものにころりと丸め込まれてしまった。
　俺の魔剣のような力を繰り出せるのはこの世界ではエンブリオであるといった所だろう。そしてその上で抑止力に打ち負け下級精霊レベルまでパワーダウンしている。
　つまりは、俺の剣の完全敗北である。
　ぶら提げられたサラマンダーの姿を見て、今日何度目になるか分からない吐息を零す。
「まぁいい。とりあえずは、だ。お前を元の剣にする方法を探す所から始めよう。お前にゃ300年以上の時間ををかけてんだ」
「はいなー」
　世界の理に屈してしまった己の剣の言葉はどこまでも軽い。溜息がまた一つ増えた。
「まぁいい。いくぞ」
　火とかげを軽く振って肩に乗せた。
　元より種族的に時間はある。この世界のウマイモノでも喰らいながら考える事とした。