双子はひとつの魂を分かち合っているにも拘らず、まったく違う容姿を持って生まれた。
鏡に映したように同じだったのは、二色の瞳と、黒い翼。
ちいさな黒蛇がのけぞる様にして鎌首をもたげ、自分より遥かに大きなその生き物を見上げていると、人型がおずおずと伸ばしてきた幼い手に抱き上げられ、やっと同じ目線でお互いの存在をみとめた。まっさらな心は感情の名前など知らずに、ただ、無二の存在であると告げてくる本能の声を聞く。
ときは夜明け前で、うっすら明るかった。
辺りは湿原のようで、水と草と土のにおいが立ち上っては乳白色の靄と一緒にゆらゆらと漂うさまが綺麗で、その光景は忘れがたい思い出になっている。
また、人型の足元に放射状に散乱した鱗がキラキラと光っているのも見えていた。
暫くすると、次第に人型の表情が心細そうなものへと変わった。そうっと黒蛇を胸元に抱え込むと、意を決したように背中の翼を羽ばたかせる。
鱗をさらに蹴散らすようにして。
しかし生まれたての翼は弱々しく、幼い魔物の体重を運ぶことなど叶わない。ますます眉尻を下げたこどもは、仕方なく歩き始めた。
言葉のない時間のあいだ、人型の目はほとんど“きょうだい”に釘付けだった。周囲に対しては気もそぞろで、ぬめった水草に足を滑らせては何度も転ぶ醜態をさらした。意外にも強い力で抱きしめられていたおかげで放り出される事態は免れたが、二匹ともあっという間に泥水まみれだ。黒蛇はすこし恨めしい気持ちになった。
それはさて置き、いつ自分たち以外の存在が現れるかも知れない。
その現状を人型より逸早く理解していた黒蛇は、自分に比べて体こそ大きいけれど無防備なかたわれに、危なっかしさと同時に庇護欲を抱く自分を感じていた。
こどもの薄い色のまつげがせわしなく上下しているのを、時折景色から目を離して見返してやりながら。
その後は同胞に見出され—————
ずっと、何があっても、何をするにしても常に一緒にいる。
だから世界中で二匹ぼっちにされても、スヴィニルはすこしも寂しくなんてない。
むしろ同胞から切り離され、何年経ても彼等に対する未練を捨てられない人型に、欲張りであると偶に腹を立てるほどだ。
傍らに我という半身がいるのに。
寂しさを覚えるとすれば、それを受け入れてもらえないことだった。
メルンテーゼを訪れた際にも、二匹の反応は異なった。
物珍しさにエンブリオに興味を示したこと自体は同じでも、見ているものがまるで違う。
仲良く引き連れて出歩くなど、もっての他。そもそもスヴィニルはレネルニルに何者をも近寄らせたくなかった。
故に。偶々見つけた赤い花と、それに惹かれて出現したちからの塊に、黒蛇は率先して牙を剥いたのだ。
驚いたそれの激しい抵抗を二匹がかりで打ち負かす。
いまいましくも負傷したが、この程度の傷ならばすぐに癒える。
ぼそぼそと、声量をおさえて内緒話。
だれが聞いている訳でもないが、昔からそんな風にしているうちに癖になってしまった。
二匹は伝え合ってはいないが、ひそかな自慢として、それを嬉しく思っている。
喰らったのは頭部に二本の角をはやし、薄紫色の肌をした、かわいらしいエンブリオ。
彼女は誂えたかのように自分たちに似た性質を持っている上、同年代の容姿をしていた。デビルと呼ばれる種族だと後に知ったが、二匹は気にも留めなかった。
どうせ新しい出来事に上書きされて、遠からず忘れてしまうのだ。