おまえさん、白詰山というのを知っておるかね？
木も草も真っ白で、まるで一年中雪が積もっているような山じゃ。
わしは昔一度見たきりなんじゃがな、そりゃあ綺麗じゃったよ。
引きこまれそうだった、と言うべきかな。とにかく怪しい美しさじゃった。
足を踏み入れるなとそこの村のもんに言われたよ。
入ったら山に食われちまうだとか、本当かどうかわからんがね。
じゃけどな、あそこに入っていいもんもおるらしい。
白ガ鬼というてな、山に愛されてるからとかゆうて、食われはしないんじゃと。
鬼とは言うが見た目は人とそうは変わらんらしい。
そやつらも見てみたかったんじゃが…だいたい山におるらしくてな、見ることはかなわんかったよ。

ん？なんでそんな話をしたかって？
噂で聞いたんだが、その鬼が一人外に出たらしい。
しかもあの一揆に参加しとるんじゃと。本当ならちょっと拝んどこうと思ってのう。
まぁつまりただの好奇心ってやつじゃな。これ、笑うでない。
懐かしいものの名を聞いてふと思い出しただけなんじゃよ。当時はよっぽど気になっておったんじゃろうなぁ。
それにしても、麓の村から出ることは全くないとも言われておったんじゃが…。
そいつは出るとは、今回の騒動は相当ヤバイんじゃろうか。

あぁ、引き留めてすまんかったな坊主。年寄りの話に付きあわせて悪かったの。
まさかと思うがおまえさんもあの一揆に参加するのか？
そうか、こんな子どもまでもか…大変じゃのう。そうでもない？いやいや。
そういえば、おまえさんはどこから来たんじゃ？ひとりか？
東の…ほう、白詰山から。あぁ、そんな遠くからなら疲れたろ…いや、ちょっと待て、まさかおまえさん…

いやいや、こうもあっさり拝めるとはな。
わしは運がいいのかどうなのか。あぁ別にどうもせんよ、安心しとくれ。
ただ色々聞いてみたかったんじゃが…驚きすぎて忘れてもうた。
だから笑うでないよ。年寄りは忘れっぽいんじゃ、からかうでない。
まぁ聞いてこれ以上引き留めるのも悪いしのう。
また暇があるときにでも寄っとくれ、茶と菓子くらいは出してやるで。
そうだ、一応名前くらいは聞いておいてもよいか？
…ミツ、じゃな。ほうか、じゃあ気をつけてな。