知能はあるが空を飛べない生き物は、もし自分が空を飛べたらという想像をする、
という話をはるか昔に聞いた覚えがある。

誰がこの話を持ってきたのだか、今となってはとうとう忘れてしまったが、
この話をしている時の彼の表情が驚きに満ちていて、そちらばかりがよく記憶に残っている。
あんまりにも憮然としているものだから理由も聞いてみたのだが、彼いわく、
想像したところでそれが現実になるわけではないから。だそうだ。彼は現実主義者だった。

ふだん空をほしいままにしている鳥類が突然海に潜らないように（たまに変わり者もいるらしいが）、
四足歩行の生き物が急に空を飛べるようになるはずがない。
一足一本足の無生物ならなおさら歩くこともできはすまい。
そう考えていた。

そう考えていた方が幸せだったに違いない。