俺は商人だ。
商人って言うのは、消費者と生産者を繋ぐ仲介役だ。
生産者が用意した物資を東へ西へと右往左往したりして数多くの消費者へと供給する。
必需品や消耗品を仕入れて供給していく移動販売業をやってる者もいる。
自らの足では動かず街の需要や都での流行りを調べ、物資を発注し運送業に頼んで物が届いたら店に並べるだけだっり…
それも商人である。

けれど、
必需品や生活消耗品だけを仕入れ売るのが商人ではない。
情報を手に入れ売るのも、違法な薬物を仕入れて売るのも商いの一つだ。
様々なモノを取り扱い用意し供給する事が出来る力を得たら、下手をすれば国一つを崩壊させ得るだけのチカラを手に入れてしまう事もある。
それには莫大な資産と多くのコネクションなどが必要になるだろ。
だが、普通の商人はチカラを手に入れたとしても害されない限りは大人しい。
自分の財産価値さえ保てれば多少の事は気にしない。



——その程度で満足していいのか？



否。

俺はそんなモノになりたい訳ではない。
確かに、懐を温めて自分の築き上げた財産に酔いしれるのも一興とは思える。
だが、得たチカラを使わずして何がチカラか。
試さずに虚かも知れないようなチカラに自分を委ねるほどに視えないチカラを信用はしていない。
ならば、試しに一国くらい滅ぼしてどこまでやれるのか…その確認をすべきだと思う。
それでこそチカラが確かなモノだと信頼し利用できる。
チカラを以ってして、歯向かうもの総てから『幸せ』を奪えると確信出来る。

『他人の不幸は蜜の味』

人の信頼得て、その信頼を利用し貶める。
希望のふりをして、人に近づき絶望を見せる。



いつしか、人は俺を『商人』ではなく『詐欺師』と呼んだ。
国一つを俺が混沌へと陥れた。
その事に満足し、別の国へと消えようとしていた時、
俺の目の前に同業者を名乗る一人の女が現れこう告げた。

「新しい世界で、最初からやり直してみたまえ」

人通りの多い市場沿いの道。
不安げに周囲を見回しながら歩く少女の姿。
前を見てはいるものの人波に流されるように気付けば、男の、直ぐ傍。

危うくぶつかりそうになったところで立ち止まるも、
実際、ぶつかるか寸前で留まるかといったところか。
どちらにしても迷惑をかけてしまったであろう金髪の男性を——見上げる。少女からしたら、とても、大きい。

何か、を言いかけるもそれはこの世界からすれば奇妙な言葉の羅列でしかなく。
本人もその自覚があるのか慌てて口をふさげば、言葉のかわりに行動で示そうとするかのようにぺこぺこと頭を下げ始めた。