市場
「お嬢ちゃん可愛いね、ウチの魚みてっておくれよ、安くするぜ」
「どうだい、活きがいいのが揃ってるだろ」
「なんだい、何でも訊いとくれよ」
「おう、見かけによらずはっきりモノ言うお嬢ちゃんだな!
コイツはレメデンっていって、東グルガン海のこの時期でしか獲れないちょいとばかし貴重な魚でな!
だがべらぼうに美味い! そして栄養も豊富で、ちょっとした病気なら食って寝りゃたちどころに元気になるってなもんだ!
どーだい、可愛いお嬢ちゃんには特別価格、100PSの大奉仕価格だ!!」
「……え? ……あー、あー……うん、確かにそうだな。
安売りの時期に上手く買えばそれくらいで買えるかもしれんな」
「あー、その、アレだぜお嬢ちゃん。
この魚をあんなそば玉と比べるのは、なんだ、ちょっとコイツに失礼っつーかな?」
「……はい」
「……」
「……いや、確かにそういわれると説明っちゅうんは難しいわな。
手に入れる難しさ、手に入る量、それに見合うにはどれだけの値段で捌くと漁師が、問屋が生活できるのか……
相場っていうのはそうやって決まっていくもんだ。
そば玉だってそうだ。いっぱい、安く作れるから安い。生きもんじゃねえからな。
その辺、お嬢ちゃんをだまくらかして納得させることはできるかもしんねえ。
だが俺っちもこの道のプロだ。そうやって客にモノ買わせてぇワケじゃねえ。美味いもん食ってもらいてぇからこの商売やってんだ」
「それでも、そば玉と比べて具体的にどれくらいの価値になるかは分からない?」
「だろうな。お嬢ちゃんはバカだけど賢い。
まだ世の中のことをよくしらねえ……多分、一揆の流れでココと関わりあったものだろう?」
「わかるさ。ここ最近、そういうヤツを色々見て来た。そんな中でストレートにこういうことを訊いてきたのはお嬢ちゃんが初めてだったぜ。多分だたの世間知らずでもあるんだろうが……」
「いや、いいさ。よし、他のヤツには絶対内緒な?
こいつが安い魚の中でも平均的な10PSの魚、ノッショだ。
このノッショとレメデン。セットで30PSで売ってやる。これ以上は絶対まからねえ。これでも大赤字だからな。
食べ比べてみな」
「ンなこたぁ分かってるよ、俺っちに上手く言葉で説明するこたぁできねえ。
かといって、めんどくせえガキだと一喝して帰らせても一生この娘はレメデンの価値に気付くことはねえ。
なら話は簡単だ。実際に食わせりゃ一目瞭然よ。
コイツは美味い。美味いモンには価値がある。
そっから先はお嬢ちゃんが判断してくれや」
「おう、ごめんなさいと一緒に残り払わせてやっから覚悟しとけ! がはははは!!」
「……25PSしかねぇな」
「……」
「あー!! もういいよ、これ以上まからねえって言った手前だ。だから今日のところは25PSでいい! また来てくれるんだろ、レメデンに価値はないって判断しても、5PSは払いにこい!」
「おう、約束だ」
「いいってことよ、まいどあり!!」
……余談となるが、魚屋の親父は魚の適当な保存法、調理法を伝えなかった為、貧乏性なエリーが食した頃にはいとも凡庸な味になっており、エリーは半ば恨めしげな視線と共に5PSを支払いにいった。
親父は激怒しながらも15PSでレメデンと一番美味い調理法を叩きつけ、またきやがれクソガキ!! の咆哮を市場中に響かせたというが、それはまた別のお話。