第一話『響けパンチ！中身が飛び出るまで』

ヒゲのパン職人は叫んだ
「全ての粉物に幸あれ！！」
パッサパサになるまで老いたパン職人は、全ての時間を新たな生命の誕生へと費やした。それは当初粉物への純粋な敬意からなるものだったが、次第に自身を神に置き換えた悪魔の所業へと発展していたのだ。
だがその所業は一つの国を創るまでに至った。国が国として出来上がった時にはすでにパン職人は地下研究所の最奥でひっそりと亡くなっていたのだが、彼は恐らく誰にも知られる事のない初代国王と言っても過言ではなったのだろう。

生まれたホムンクルスは欠陥品だった。仲間という概念を持つ事ができず団体行動が取れず設定された正義を力任せに発揮する哀れなベークド男はただひたすらにパンチした。アーとパンチしか喋れぬその口から出る声は、自分を生み出したパサパサへの憎悪なのか、はては自分を欠陥品だと、不良品だと決め付けてかかった新王国軍への恨みなのか、あるいは自分自身への虚しさなのか。
圧倒的な戦闘力を持つベークドだったが、ある新兵の放った古い弾丸が頭部を掠めた時、偶然にも勝負が決した。その錆が異物混入となって彼の全身を痛みが襲い、弱体化させたのだ。
しかし彼は折れなかった。というよりも降参という事すら考えられなかった。仮初の思考力すら失われ野獣のようになったベークド男は、その力の源だった餡子が尽き果てるまで戦った。パサパサが作り出した他の三体のプロトタイプもまた新王国軍の決戦型最終兵器アカカビとアオカビが実戦投入され成すすべも無く崩れ落ちたのだった。

新王国軍は勝利した。だが失った物は大きく、以後彼らは自らが仕様したカビ系兵器の駆除に数十年を費やす事になるのだった。