郊外の公園。空が次第に茜色へ染まり、暗がりへと移ろうとしていた。
街の中心部より幾ばくか離れ、外の高原よりは中ごろに寄っている場所に、その公園はあった。

住民の意向により、外の高原に生息している樹木林や、かの有名な異人が記した石碑などを鎮座した並木通りなどがあり、様々な世代の住民達や精霊達の憩いの場ともなっている。

その公園の奥に位置する夕闇に染まる木々の間。
灼熱の光が弾けた。


双角の青年はそこにいた。
木々の開けた場所。そこまで整備されていないのか、足元には大量の枯葉と、横たわった枝が無造作に投げ出されていた。
そして周囲には焦げ付いた匂いが充満している。
金の髪は解れ、衣服は所々擦り切れてはいるが、目立った外傷は無かった。
男は片方の目を細め周囲を見回し、一歩を踏み出した。

その瞬間、闇の中から鋭い爪が襲い掛かる。

青年はまだ歩みの動作の途中であり、蜂の様に鋭い一撃に反応すら示していない。
それは勝利を確信した。
猛々しい肉体が滑るように動いき、疾風の如き一撃を叩き付けた。
人体の急所、喉、肋骨を縫って胸、背骨の腰椎近く、大腿部。それらを叩き込む。それと同時に、勝利を確信したままそれの上半身は吹き飛んでいた。
軽やかな動作を行なっていたそれが、半分に分かたれたまま地面へと崩れ落ちていく。
青年は掴んでいたそれをぱっと手放した。僅かに浮いていた方の身が、今度こそ完全に地面へと倒れ込む。
青年は迫り来る背後の一撃を片手で受け、それを軸として浮かせた足で地面を蹴り、常識外れの威力で真横へと薙ぎ払ったのだ。
それの判断は間違ってない。申し分ない速度で繰り出す技。軌道の読みも正確であった。
単に青年の戦闘力を図りきれてなかっただけだ。


「これで最後かな・・・・・・」

朱の片目を眇め、キョロキョロと周囲を見回す。周囲の気配を辿るが、先程の一匹で最後だったのだろう。
一応鼻を引くつかせる。煙の燻るものと、湿気が籠もった土の匂いが一気に鼻腔を通り、つい顔を顰めてしまった。

「うぁ・・・・・・」

鼻先を指で掻く。だが一回むず痒さを得た感覚は、中々消えたりしない。仕方が無く青年は早々に放っておく事にした。
それより足元の枝を見る。どうやら最近まで雨が降っていた様で、湿った樹木の表面は焼けていても、中までは焼けることはなさそうだ。
火事にはなりそうもないと見て、ほっと安心する。


周囲を確認したカーフェイネスは、おもむろに胸元にあるポケットに手をかける。
その中を窺う様に覗きこむと、身を丸ませて、縮こまった姿が。

「サラマンダ−がこんな所に居るなんて」

水辺も近く、鬱葱と茂る森だと闇の精霊か土の精霊が目立つが。

「はぐれ、なのかな…」

ここ一帯を燃やす灼熱を放ったのはこの精霊だ。周囲を焦がす熱と光、暴風から推測するにかなりのを放ったのだろう。
今は力を使い切って疲労困憊といった所か。先程の戦闘然り、今もこちらが見ても起きる様子はない。

「……結構よく寝るてる」

小さく笑いながらそっとポケットを戻し、もう危険が無いと確信したら宿へと戻ろうと踵を返す。途中病院に寄ってこの子を診てもらおう。
そう思いながら歩いていると、

「っ！まだ居たのか」

僅かに漂う泥土の匂い。この公園からではない。木々の間から流れてくる風の音と、獣の眼が出所を捉えていく。
距離を空けた西の街の方からだ。
苦々しく顔を歪めると、カーフェイネスは胸ポケットに手を添え思い切り地を蹴った。荒々しい風の様に身を奔らせながら、其れを殲滅させるが為に。

木の陰に隠れて見ていたようだが、目が合った瞬間慌てて飛び出てきた

じーと頭の上のほうを見つめている。

顔を真っ赤にしながら、慌てている様子がとても可愛い。

そう言うと走って行ってしまった。