※ 前期六命の設定・シチュエーションを引き継いでおります。予めご了承ください。


*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

女の子が訊ねます。

語り部がゆっくり頷きます。

語り部は顎をさすりながら空を見上げます。

女の子は小さく首をかしげましたが、すぐに頷きました。
そこにその言葉があるという事は、もちろんそういう事なのですから。

それだけ言うと、語り部は満足そうに女の子に笑いかけました。
それで、女の子は先程よりもより大きく首をかしげてしまう他にありませんでした。

女の子は慌てて首を横に振ります。

では、と語り部は笑うと、ぴんと人差しの指をつき立てて見せました。

語り部の指がするすると宙を滑り、もう片方の手で持っていた札の束から一枚を抜き出すと、
抜き出した札を裏返したまま地面に置き、残りの札を懐にしまってしまいました。
札の裏側にはやはり先ほどと同じ絵が描かれてありました。首の無い馬の絵です。

言われて、女の子はほんの少しだけ困った顔をしました。

とんと札の絵を指の先で叩きながら、語り部は言葉を続けます。

女の子はもう一度考えてみました。
今度は目を閉じて、心を静かにして、「首無しの馬」を想像してみました。

女の子は頷きます。

女の子の言葉に、語り部はにっこりと笑いました。

語り部が静かに札の上に手を重ねます。
札は語り部の手の中にすっぽりと隠れ、そして今度はゆっくりとその手を離すと
どうでしょう、一枚だった札は更にいくらかの札の束になっていたのです！

札の絵も変わっていました。
首の無い馬ではなく、王冠をかぶった人物の絵でした。

—声が聞こえる。　女と、そして男の声のようだ。
声の主の姿は見えない。
声も、靄のかかっているかのように曖昧だ。

2つの声が段々と遠ざかってゆく。
朧な声はいつの間にか静寂へと変わっていた。

泥に沈むような、闇に溶けるような音を立てながら、
それは「もや」の中へと静かに消えていった。
飲み込まれるその時、僅かに何かが壊れたような音を聞いた。

—もしかしたら、あれは咀嚼音だったのかもしれない。

そのすぐ後に唾を飲み込むような音が追って来たから。