昼前の穏やかな日差しに満ちた木立の、鳥の声が唐突に止まる。
そのかわりに響くのは、平和な森に似つかわしくない尖った声。
ひとりの小柄な青年——レグルスが、苛立った様子で仁王立ちしている。
「ふざけやがって、お前のせいで置いていかれでもしたらどーすんだ？ああ？」
短く刈り上げた髪の天辺は冠羽のように柔らかく立ちあがっていて、声に合わせて僅かに動くそれが、髪に僅かに混ざる羽とともに彼に残る鳥人の血を表しているようにも見えた。
威圧するような調子で目の前の相手に詰め寄っていく。
「何度引っかかれば気が済むんだよ！
さっきは腕、さっきは足、んで、今度は頭か！」
彼の怒りの矛先は細い木と木の隙間にはまり込んだ、オウム———と言うには、成人男性ほどの体高の、羽の先に大きな腕を生やした巨大な生き物だった。

「きゅう」
嘴を掴んで強引に引きずり出すと、音を立てて枝がいくつも折れ、その鳥——カカがつらそうに声をあげた。
枝が柔らかな肌に食い込んで血が滲んだが、おかまいなしである。
「次はその頭ごともぎ取るからな」
応えるかわりにぶるると身体を震わせる。
時間もあるし少し寄り道、のつもりがだいぶ時間が経過している。これでは観光もできない。
本来なら彼らは、このあたりに来る事はなかった。それもこれも、新王への代替わりが切欠となる。


新王に代替わりして以来、すっかり貴重品になってしまったネクター。
これから。これからだった。もっとエンブリオと契約して、そうしたら、一人だけの力で戦える。今までの自分には権利すら与えられなかった、その力でそれこそあいつらを片っ端から………
「くそ！！」

もう過去の話だというのに、振り切ったはずの執着はまだ消えてくれそうにない。

「あの」
俯いたままのレグルスを心配そうにカカが覗き込む。
「大丈———」
「うっせえッ！！」
鼻先に拳を叩き込まれて、カカの大きな体は大袈裟にひっくり返る。
積もっていた枯葉が、レグルスの背よりも高く舞い上がった。


大丈夫だ。もう、あの里へは戻らない。
だったらもっと、やりたいようにやってやろうじゃないか。試験だかなんだか知らないが、いくらだって受けてやる。
オレは…”強い”んだから。

　白い服にマントの少年がそちらを見つめていた。
　共にいる動物にも視線を動かし、物珍しそうな顔をしている

　罵声と溜息といろんなものが彼の方から聞こえた。
　……気のせいか彼の口は動いていないように見えたのだが。

宙に浮かんだ少女が無遠慮な声を上げ、近寄ってくる。

少女はふわりと身体を一回転させ、眠そうにあくびをしてから、こう言った。