—某日、夜。全く人気の無い真夜中の森にて。
一人の青年が、森の奥、不気味なゲートの前でひとり呟く。
青年は勢いよくゲートに飛び込むと、その森から、その世界から姿を消した。
紫色の三つ編みに、白いジャケット。そして腰には拳銃の様なトリガーとシリンダーが取り付けられた不思議な剣を引っさげた20代前半の青年。
彼の名はシオン・パープルライト。
彼のメルンテーゼでの長い冒険が、今始まる。
Prologue
〜小さなパートナー〜
ゲートに飛び込むと、そこは現世にはない様なトンネル…のような所だった。
辺りを見回しても名状しがたい光景のみが続き、ただ目前の光に吸い込まれるように進んでいくだけだった。
シオンはその光景に目もくれず、ただ光の先を目指した。
新しい世界への憧れ、そして、新しい冒険に期待を寄せて。そして光の先へ—
トンネルを超えた先、シオンは空中へと放り出された。
そこは、先程の夜の森とは正反対の、昼間の丘の上だった。
ドシン!
気持ちのいい音が周囲に鳴り響き、シオンは地面にしりもちを着いた。
***
シオンが服の汚れを振り払いつつ、周囲を見渡すと、すぐ横に小さいトカゲのような生き物が四足で立っていた。
トカゲ?…サラマンダーは、興奮していた。
シオンが落下してくる時、丘の上で日向ぼっこをしていたサラマンダーは、シオンが落ちた時の音に驚き、興奮してしまったようだ。
執拗に火を吐いてくるサラマンダーをやり過ごしながら、シオンは手元の荷物袋から何かを取出し…。
そう言いつつ、シオンは手元から干し魚を取り出した。
すると、直前まで火を吐いていたサラマンダーは火を吐くのをやめ、
そう言いつつシオンがサラマンダーの元へ干し魚を投げると、サラマンダーはシオンを警戒しつつ…干し魚を食べた。
あっという間に干し魚を平らげたサラマンダーは、シオンの前に立ち、
こうしてシオンとサラマンダーは和解したのだった。
***
サラマンダーとシオンは、取り敢えず最寄りの町が無いかを探す為に丘を降りていくことにした。
サラマンダーに「人の住む場所はどっかにないのか?」と聞いてみると、サラマンダーはご機嫌そうに歩き出したため、シオンはしぶしぶついて行くことにした。
***
ちび助とは、サラマンダーと呼ぶのが面倒臭くなったのか、シオンが勝手にサラマンダーに付けた名前である。
シオンが一つ質問を投げかけると、ちび助は途端に暗い表情を見せた。
シオンが話を止めると、目前から人と似た姿をしたゴブリンが2匹歩いてきた。
此方の姿に気づいたゴブリンが、武器を構えてダッシュで近づいてくる。
その様に怯えたちび助が、シオンの後ろへと隠れ始めた。
シオンは剣を抜き、迫りくるゴブリンに対し剣を構えた。
獲物の間合いに入り、ゴブリン二体の斧がシオンめがけて正面から振り回される。
その二体の斧を受け流しつつ、シオンは左に回り込んで斬撃を繰り出す。
向かって左側のゴブリンに斬撃は命中し、よろけてそこで膝をつく。
もう片方のゴブリンが左側のゴブリンを軸にし死角から斬りかかってくる。
これを間一髪で避けようとしたが避けきれず、シオンは脇腹に斧の斬撃を喰らう。
痛みを堪えつつ、ゴブリンに回し蹴りを見舞い、膝をついたゴブリンの元へと蹴り飛ばす。
その隙にシオンは後ろへと下がり、一時戦闘は硬直状態へ。
そう言いつつ、シオンはポケットから弾薬を取出し、剣のシリンダーへと装填する。
そして、シリンダーをセットし、柄にあるトリガーに指を掛ける。
カチッ!
叫びと共にトリガーを弾くと、弾薬から光が霧散した。
霧散した光はやがて刃を包み込む。
再び迫る一匹のゴブリンに、シオンは先程までとは比較にならない速度で急接近、背後に回り込み強烈な一閃をお見舞いする。
一閃を貰ったゴブリンは、見事に真っ二つになり動かなくなる。それを目撃したゴブリンがシオンの背後から迫りくるも、
振り向いたシオンに斧が届く寸前、ちび助の炎がゴブリンに当たり、焼けたゴブリンは苦しそうに地面に転がり込む。
そのチャンスを逃さず、のた打ち回ったゴブリンにトドメの一撃を加える。
その一振りの後、剣に宿った光は消え去った。
二人の、否、一人と一匹の勝利だった。
***
そう言いつつ、シオンはちび助の頭を撫でる。
シオンが別れを告げ、ちび助に背を向け町へと降りていこうとした。その時。
後ろからちび助が急接近で追いかけてきた。
Prologue End