突然村にやってきて、ネクターを没収すると宣言した阿呆を後ろに回りこんで殺してから数日。
駆け込んできた農家風の男は、ネクター収奪と独占を宣言した王に対し大規模な武装蜂起…
“一揆”を始めるため、協力して欲しいと願い出てきた。
村を挙げての決起をとはやる皆をなだめ、これまでの恩返しに一人で行かせて欲しい、どうか皆には
村とエンブリオとネクターを守っていて欲しい、とお願いしたのは紛れも無い本心だ。
だが、「他の世界にも救援を求めた！」という言葉に背中が波打ったのもまた事実だ。

村の人たちは優しい。他の世界から迷い込んできた食い倒れにさえ優しい。
その優しさが苦労の末に生まれたものか、安穏の内に醸成されたものかはわからない。
その優しさの背後に回りこんでくる悪党がいるのでは、という恐怖がただ重かった。
彼らにはまた迷い込んできた食い倒れの面倒を見てやって欲しい、そんな身勝手に突き動かされた。

妖艶なエンブリオは口角を微かに歪めついてくる。
まずは一揆陣営への面通しだ。無論彼等が王に通じていない保障はどこにもない。
それならその時だ。相手の後ろに回り込もうとする者は常に相手に後ろに回りこまれようとしている
ということを教えてやろう。