ここはイブリス修道院。山間にある教会跡を使った孤児院。

わたしは9年前にシルグムントの戦争で、まだほんの赤ちゃんだった頃に両親を亡くして放り出されていたところを、偶然通りがかったシスターマリアに拾っていただいたの。
形見の着物と、たぶん、私を守ってくれた父の刀といっしょに。
マリア様、シスターマリアはそのときの詳しいことは辛い思い出だからってあまり話してくれないけど、みんな優しくしてくれるから寂しくはないわ。それにわたしも、もう9歳。お姉さんなんだから。

この修道院では、わたしたち子供は水をくんだり、薪をひろったり、畑をお手入れしたり、そんな生活のお手伝いとは別に、たぶんトクベツだと思うけど、リヴァランがとても剣術が得意だっていうので時々お天気の良い日には刀の使い方を教えてもらっているの。
たぶん、形見に刀があったから、気になったんだと思う。大きなものだからわたしには使えないけれど、大きくなったらこの服と一緒に私が拾われた場所に行ってみたいな、って思う。

神父様が、わたし達のために遠くへお仕事へ出かけられて、マリア様に聞いてももなぜか言いにくそうでどこへ行ったのかわからないまま、何日かたちました。
いままで、お出かけされるときにこんな感じのことは無かったんだけどな。もやもやを忘れるつもりで、滅多にしない素振りの練習をしていると白い特徴的な服を着た人たちが訪ねてきました。

この服は確か神父さまも着てたタリスベル教団のです。

最低限の返事だけはすると、身振りで礼拝堂に案内しながら、我慢できなくなってつい聞いてしまう。マリア様に怒られるかも。

何か胸騒ぎがしたわたしは、マリア様を案内したあと、礼拝堂の窓からそっと様子をうかがってみました。話してる内容はよくわからないけど、白い服の男達は何か強い調子でマリア様に迫っていました。ああ、きっとなにか悪いことが起きるんだ。

あとで、マリア様にちゃんと聞いてみよう。
もし、シスターマリアが困っているなら、ちょっとでも力になりたい。
小さな決意を胸に少女は一歩踏み出す。