１９９９年

１月…
戦争が始まった。人と人との争い、あらゆる文明が戦火に巻き込まれていった。

２月…
不穏な空気を感じつつも、戦火に巻き込まれることはないと思い、このまま平和が続くと思っていた。

３月…
空から落ちてきた白い閃光、それは一瞬にして、すべてを吹き飛ばし、村も、街も、廃墟と化した。

４月…
かつての仲間、みんなと会えなくなった。死んだかどうかもわからない、でも、きっと…。

５月…
生きるために、ただ、生きたいためだけに、どこまでも逃げていく。死にたくない。

６月…
世界は『アルマゲドン』の炎に焼かれ始めて行く。

７月…
魔界の扉が開かれた。凶悪な悪魔達が世界を支配し始めていく。

８月…
残酷な悪魔は、世界を死滅の大地へと変えていく。地獄の業火で、世界は包まれていく。

９月…
天使が降臨した。闇に覆われた世界が再び光に照らされた。地獄と化した世界が浄化されていく。

１０月…
『アポカリプス』が世界を襲う。空からは火の雨、海は煮えたぎり、太陽は暗黒におおい隠される。

１１月…
世界人口の９０％が死亡。天使達もほとんどが死に絶えた。

１２月…
どこまでも広がる、死滅した赤黒い大地、世界の終焉と共に、死にゆくだけの存在へ…。

どこまでも広がる焼けた大地。この世界は、もうほとんど何も残っていない。
希望の見えない明日…、何もかも失い、絶望だけの未来…堕ちるところまで堕ちたような世界。
…それでも、人々は僅かながら生きている。滅びてしまった、この場所で…。
エシャロットは否定の世界から、再び元の世界に戻ってきていた。

エシャロットはイグニをぎゅーっと抱き上げながら、優しく頭ををなでなでとする。
気持ちよさそうに笑う二人は、本当にこの世界が滅んだとは思えないほどに眩しい存在である。

普段は普通に触れるようになったが…感情が高ぶると火傷の一つは覚悟しないといけない温度に上がるのは相変わらずのようだ…エシャロットはさっそく燃やされている。

なお、先ほどした火傷はすでに治った模様。とんでもないギャグ補正である。

世界平和、まるで夢のような言葉だが、今のエシャロットは本気でそう言っていて、それを実現する力と、託された物があった。

セイクリッドスペイド。
エシャロットが否定の世界に初めて来た時は、力は完全に失われ、ボロボロのクワでしかなかった。
だが今は違う、修復は完全にされていて、鎌もついている異質な構造となっていた。
それがエシャロットの愛用のクワの真の姿、天使が最後に残した聖なる宝具である。

◆

僅かに生き残った人々のために、各地をふらふらと歩きまわっては、救いの手を伸ばすように悪魔を葬り、土地を浄化していく。
実に途方も無い旅だが、イグニが一緒にいたから、ここまでがんばれた。

セイクリッドスペイドを一振りして、地面を突き刺すと、瞬く間に緑が広がった。
真っ黒に汚れきった地面も、空も、浄化されていき草木が甦っていく。

天使の加護を受け、その力まで使いこなすようになったエシャロット、もはや敵は他にいない。
そう思わせるような雰囲気がした…その時だった。

地鳴りがする。あたりにピリピリとした威圧を感じるような気配を二人は感じ取る。
特にイグニは、精霊に近いその本質から、特に敏感に危機感を感じ取っていた。

背筋が凍るような吐息を吐き、エシャロットの名を呼ぶそれは…
紛れもなく悪魔と呼ばれる存在であった。
大きな角が四本生えた、全身が赤色の悪魔…
身体は非常に大きく、ぱっと見て5mはあると思われる大きさだろうか。
鋭い目に、大きな牙を持ち、禍々しい三叉槍を手に持ったその姿は
まさしく悪魔としかいいようのない姿をしていた。
その恐ろしい姿と、恐ろしい声で、エシャロットに話しかけてくる。

しかし、エシャロットは動じることはない。
これまで、何度も恐ろしいものは見てきた、踏んできた場数が違うのだ。

エシャロットの言い分はともかく、その悪魔の台詞と容姿からは、相当高位であることが見受けられた。
おそらく、この世界を支配している悪魔の一匹であろう。

只者では様子は十分に伺える。
しかし、エシャロットにはまず負ける要素がない理由があるのである。

自慢気にそのような説明をした後、イグニの小ネタもしっかり回収する。
おそらくエシャロットが教えこんだのだろう…。理由はどうあれ、エシャロットは非常に余裕を持った様子を見せていた。
そのままセイクリッドスペイドを構え、戦闘態勢をとる。

その意味深な言葉にエシャロットはキョトンとし始める。

次の瞬間、空が瞬きする間もなく曇っていく。浄化したばかりのこの土地が再び闇に覆われた。
それだけでない、何か肌寒さを感じるようになり、セイクリッドスペイドが、ずっしりと重くなったのだ。

まるで、身体の中から魔力がなくなったのような感覚…
イグニも弱々しくなり、へろへろになっていく。
何か、黒い煙のようなものが身体にまとわりついてきている。力が入らない。

大儀式。それは世界各国、すべてに大きな影響を与えるほどの究極の儀式である。
この世界は、今は悪魔に支配され、地獄に侵食され、穢れた世界となっているが…
それも、一つの大儀式によって、悪魔がこの世界に大召喚を行われてしまった結果なのである。

その悪魔は、何やら長々とした呪文を詠唱しはじめる。
大儀式による影響なのか、異常なほどの気怠さで、大鎌を支えにして立っていることしかできない。
詠唱をそのまま許してしまうと、異次元の門が開き始めた。
どこに繋がっているかもわからない漆黒の空間が広がっていく。

地獄の底…、ここもすでに十分に地獄なのだが、ここより酷い場所に送られるというのだろうか。

迷わずイグニは、異次元の門に飛び込んだ。
エシャロットを追うように吸い込まれていく。

絶対に離さない、そんな気持ちを感じるほどに、飛び込んできたイグニを抱きしめた。
もう絶対に、離れたくないから…、けど…。

◆

どこまでも、底に堕ちていくような感覚。身体が冷たくなっていく…。
どうすることもできず、異次元空間の中を彷徨っていく。
あの悪魔は、地獄の底に送ると言っていた。
一体どんな場所だろうか…、否定の世界よりはマシだろうか…？
…わからない…。今は、イグニを抱きしめて、離れ離れにならないことだけを必死に考えた…。
意識が遠くなって…しだいに、何も考えられなくなっていく、その時…。
光が、見えた。その光は次第に、広がって………

◆

…森の中、いや、山の中だろうか…。
どちらにしても…こんなに溢れた自然を見るのは、何年ぶりだろうか…。
小鳥の声が聞こえる。生命が、そこにあることを感じる…。

目を覚ましたエシャロットに、イグニは速攻で顔面に飛び込みフェイスハガーのごとくしがみつく。
どたばたとしながらも、起き上がるのであった。

とてもそうには思えなかった。
荒廃したあの世界よりひどい場所なら、そもそもこのような溢れた自然もないはずなのだ。
ここは、一体…？

茂みを避けて進んでみると、そこは崖になっている。落ちないように注意しながらも、そこに広がる景色を見渡した。すると…
まるで、自然に溶け込むように造られている巨大な城が…聳え立っていた。

◆

〜エシャロットの冒険記、メルンテーゼ編〜

はじまるよ！

PHPをじーっと見つめながら片手を差し出してる状態