——どうもここ暫く、きな臭い話が絶えない。
やれ何処かの領土が廃れただの、国王の独裁だの、
どうやら一揆が起こるらしい、だの。

現金を宝石に換金しておきたいのか此処数日商売の方は上々だが、
それに比例して、面倒ごとも増えて来ている。

例えば、今後ろからつけて来ているゴロツキたちがそうだ。




調子が良かったので手元にあった在庫の類も露商で売りさばき、
少し懐の方は暖かくなったのだが、恐らくそれを狙って来たのだろう、
面倒な連中にまで目を付けられてしまった。

少し開けた、人通りの少ない道を行きながらスィナンは考える。
暴力沙汰は不得意だ、何とかしたいところだが……。

と、ふと視線を先へ移すと、1台の幌馬車が向かって来るのが見えた。
スィナンはこれ幸いと歩みを速め、ゴロツキたちの視界から消えるように
馬車の影に隠れると、そのまま馬車の荷台に飛び乗った。

「？　何だ？？」
「悪ぃ、ちょっと乗せてってくれよ」

訝しがる馬車の主に向かって幾らかの銅貨を放り投げ、
幌に隠れた荷台に身を潜める。
ゴロツキたちはきょろきょろと辺りを見回しているが、
どうやら諦めてくれたようだ——

「この馬車は何処まで行くんだ？」
「王城の前までだよ」
「王城前か……。懐の暖かい内に、俺も用心棒でも雇うかな」
「王城前の酒場なら、人も情報もよく集まるだろう」
「どーも。行ってみらぁ」

出来るだけ腕の立つ、適当な値段で雇える奴にしよう。
出来れば人当たりの良い、商売の邪魔にならない奴がいい。
そんなことを考えながら、スィナンは馬車に揺られ、王城を目指す。

ずいっとスィナンの前方へ回り込む人影がひとつ。

剣を傍らに携えた女は、怒りに半ば諦めを滲ませた声で仁王立ちし、スィナンを見上げていた。