レイヤ先生が倒れたのを切っ掛けに、私とサクラは特別卒業試験の課題を破棄して王立錬金術アカデミーへと戻った。
　事情が事情だったので、卒業試験の課題である兵庫さんと道産子さんを元の世界に還す件については、アカデミーの方から免除というお達しがあった。
　サクラは兵庫さんに謝って、レイヤ先生の薬ができた後には兵庫さん達の件についてフォローすると約束をして当人とは和解済みであった。
　兵庫さんも、それ程切羽詰まって元の世界に還りたい様子でもなかったので、私もホッと胸をなでおろした。　

　それでも、サクラが特別卒業試験を破棄した事に負い目を感じていない訳はない。
　サクラがレイヤ先生の治療薬の研究に集中できるように、私は錬卒業課題として兵庫さん達を元の世界に還す事を錬金術アカデミーに再び申し出た。
　レイヤ先生がサクラにレシピを託した薬の完成を手伝うより、私がサクラの負担を少しでも減らして、薬の完成に全力が尽くせる
ようにサポートしたほうが良いと判断したのだ。
　
　元々、私はあまり薬の調合は得意な方ではないし、転送術や召喚術の研究のほうが貢献しやすいのである。
　兵庫さん達を無事に元の世界に還すことが出来れば、私も日本に普通に還る事ができるかもしれない。
　
「と、言うことで。兵庫さんの件については、これからは私が責任をもって調査、研究しますね。よろしくお願いします。」
　
　私が大まかな概要を伝えると、兵庫さんは納得してくれたようで頷きながら微笑み返した。

「分かった、あんたに任せる。お礼に、私が培った恋愛テクニックを伝授してあげるわ。」

「え？それは別にいいです。」

「遠慮しなくていいわ。ギブ・アンド・テイクよ。」

　兵庫さんの何処から来るのか分からない自信満々な態度は、私の首が横に振れるのを許してくれなかった。

子供が手を振り近づいてくる。

王城前へと続く道。
声のするほうを向くと、そこには一本足の少女が貴方よりも高いところに立っていた、岩とかに。
腰から下がなく、ボロボロのスカートみたいな部分から木の足が一本。

少女は槍を無駄にぶんぶん振り回している。

あそこ、とは遠くに見える王城のことだろう。
一本足の少女はしばらく止まってもごもご小声で何か呟いていたが、

……どうも道に迷っているようだ。
無視していいし、からかってもいいし、案内してもいい。

腕試しまでの一時。準備を整える深雪の前に、ふらりと現れる人影。
年は30を越えたあたりだろうか、お世辞にも美形とはいえない丸い顔に弛んだ目尻。
一言で表せば人懐こい顔。男のようだ。褪せた薄緑色の帽子を被っている。

男は笑みを浮かべてへこへこと頭を下げつつ、深雪の目をじっと見つめているのであった。