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No.354 灰 | ジャンニ・マリア・フィオット |
コミュニティメッセージ |
ジャンニ(354)の声は粘りつくように低く響く: 静寂があった。そうして平坦な灰があった。なにが燃え尽きたものであるのか、なにが焼け死んだものであるのか、すべて匿名的な過去に褪行して行方が知れず、弔鐘も葬列もなく、灰は大地を満たしていた。 空は原色の青で塗りつぶされて暮れることも空けることもなく、昼間であるようにも日昏れのほんの少し前であるようにも思われた。時を計る一切の手がかりはなく、また時を計る自由意志もそこにはなかった。あったものはただ灰ばかりだった。
灰には小さな足跡が残されていた。その両脇にはなにか細いものを引きずったような涸れた川に似た痕があった。風一つ吹かないその土地には、いつついたとも知れないその痕が長いこと残されていた。気に留めることのできるものはなく、乱れを正す意思も理由もなかった。その土地ではすべてが終わっていた。道は途絶え、歩むことのできる場所はなかった。盤外のように。そこは舞台になったことはなく、また永遠に舞台になることもないはずの場所だった。
実のところはその土地があるのかさえ不明だった。誰もそこを知りはしなかった。正確には、あるはずがなかったのだ。一切が滅びたあとの地点が土地として存在するなど。過去はアーカイブされることなくただ消え去っていく。納骨堂は比喩にすぎない。過去の滅びた土地に焼け落ちた灰が積もっていると、それは希望でこそあれ物語的な希望以上のものではなかった。ゆえに灰は存在しない土地だった。灰はただ灰であるのだから。その灰を掬い上げることも嗅ぐことも誰にもできない。ただその灰があるという比喩を空想のうちに描くことのほかには。
ゆえにこの土地は比喩の問題だった。この土地で語られることはみな比喩であり、起こることも起こらないことも比喩の一環だった。ジャンニ・マリア・フィオットが霊薬の幻覚のうちになにを見たのか。ひとりの少女が崩れ去る遺跡のなかでなにに嘆き、なにに救われ、どこへ行ったのか。それは本当は起こらなかった。ただそのときに比喩の灰の底で、比喩に意味されるに足る迷いがあり幻覚があった。夜は暗く地の底は深く、しかしそこへ沈没しなくてはいけない正当性があった。
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コミュニティ参加者 |
参加者 計 1 名
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