ENo.537 MapleAndFairyTale

14隊を撃破し慌しく遺跡外に戻ってきた一行。
しかし、休む暇も有らばこそ。ステッキはメンバーを集めて会議を開いた。

杖「問題は次ですね」
シフォン「ほねほねさんですねー。かてるのかなぁ……？」

話は他でも無く、次の目標である某髑髏の撃退方法である。
それに勝つ為の手段に、ステッキは頭を悩ませていた。

既に髑髏を撃破したチームが出ているという情報は、遺跡外にまで伝わっている。
どういった仕組みかは分からないが、そういったネームドモンスターが撃破されるごとにカウントが始められ、
一定以上出遅れてしまうと、受ける恩恵が目減りしていくようだった。

幸い、既に取得した魔法陣から速やかに向かえば、さほど恩恵を減らす事もないのだが――

杖「レゥさんを前衛に立てて、何とか受ける被害を減らしながら戦うしか……」

そう言ってちらりとレゥの方を見ると、彼女は特に表情を変える事無く頷いた。
レゥのテレパシーを「ただ論理的にしか」聞く事の出来ないステッキではあったが、
それでも、レゥが一人矢面に立つのに前向きでいる事自体は伝わっていた。

シフォン「にゅぅ……レゥちゃん一人で大丈夫なのかなぁ……？」
レゥ「…………（こくこく）」

心配そうにレゥをみるシフォンに大丈夫と言わんばかりに頷き返すレゥ。
幼い少女にしか見えない（そして実際幼い）彼女に前衛を託す事には並々でなく抵抗を覚えるのだろう。
遺跡内で受ける制約の関係上、一見ひ弱に見えるレゥもその実耐久力は壁役並であるが、
いざ戦闘が始まれば、ビジュアル的にも教育的にもあまり良くない光景が待ち受けているに違いない。

杖「その分防具に関しては、ギリギリまでレゥさんに良品が回せるよう手配しますので」
レゥ「……（こく）」
ステッキ「あとは……そうですねー……うーん……」

そう小さく唸ると、ステッキはひょこりひょこりとその場で往復を始めた。
人間で言うと手を顎に当てて右へ左へと歩いている仕草に相当するのだろうが、
ひょこひょこと左右にステップを踏む杖と言うのは、どうにもファンシーな光景だった。

レゥ「………」

ステッキの考えを図りかねたレゥが、逸早く視線でステッキに問いかける。

杖「あー……いえ、言っても仕方の無いことなんですが」
レゥ「…………？」

何か懸案でもあるのだろうか。
レゥの小首が傾げられる。

杖「やはり一度でも良いので敵をこの目で見ておければな、と」

他の冒険者や遺跡周辺で商いを行う人々を通すことで、がしゃ髑髏に関する情報は、実際多く仕入れられてはいた。
しかし、それはあくまで他人の主観や主張が混じったものであり、
他人から聞き及ぶと云う時点で、情報はその意味を変え、時に歪められてしまう。
即ち、百聞は一見に如かずの格言である。
己が目で確かめた一の情報は、他人から与えられた百の情報に勝るだろう。

それを聞いたレゥは、少し目を細めてステッキの方を見た。

杖「……？見に行ける、ですか？」
レゥ「……（こく）」
杖「しかし制約が……。え……？……なるほど、それで。……知られずに行けると、可能と」
レゥ「……（こくこく）」
杖「ふむ……」
シフォン「……ふぇ？」

レゥとステッキの間で何かしら遣り取りが行われているらしい。
シフォンはその空気こそ読む事が出来るものの、二人が何を話しているかが判らない以上、
口の挟みどころがなく、両者の間で視線を往復させていた。

杖「……そうですね。では、お願いするとします。明朝、日が昇りきらない頃に出立するとしましょうか」
レゥ「………（こくり）」

レゥは杖の確認の言葉に最後に一つ頷くと、立ち上がって天幕の方へと向かってしまった。

シフォン「あのぅ……？」

何の遣り取りが行われたのかイマイチ判らないシフォンは、
おずおずとステッキに向かって話しかける。

シフォン「えっと、二人で何かするんですか？」
杖「ええ。明日の未明から早朝の間を利用して、先にがしゃ髑髏を見てこようかと」
シフォン「あ、だから髑髏さんって言ってたんですかー」

ステッキの説明で一旦は納得したのか、首を縦に振るシフォン。

シフォン「……あれ？でも……」

しかし直ぐに気になることが出てきたらしく、そのまま首を横に傾げた。

シフォン「あそこって、魔法陣から結構な距離がありますよーぅ？」
杖「そうですね。ただ、レゥさんは充分行ける距離だと仰ってましたね」
シフォン「はぇぇー。レゥちゃんって、足が速いんですか？あ、私みたいに飛べるのかな……？」

ステッキの脳裏に一瞬、鋼鉄の翼をパ●ルダーオンしたレゥの姿が浮かぶ。中々にシュールだ。

杖「それは流石に無いかと思いますが……。それに、空から向かうのは危険ですね」
シフォン「あれ？そうなんですか？」

ついていく気でもあったのか、空がダメだと言うステッキの言葉に、
シフォンは少なからず驚いた様子を見せた。

杖「我々はあくまで遺跡の探索者ですからね。あまり公にルールを無視するのは色々拙いかと」
シフォン「なるほどー。……レゥちゃんは大丈夫なんですか？」
杖「さて、本人はそう言ってましたがね。まあ、危なそうなら直ぐにやめさせますので」

確かに目視での情報は欲しいが、身を危険に晒してまで欲しいワケではない。
レゥの言葉に聊かでも虚言があるのであれば、ステッキはレゥを止める心算でいた。

シフォン「じゃあ、明日のために特製のお弁当を用意しちゃいますねー♪」

ニコニコ笑顔のシフォンを見た、ステッキに電流走る。

杖「あ、いえ。お弁当は別に」
シフォン「えへへー。ここは定番のアップルパイかな。それともプディングかなー」
杖「ああああ。やっぱり甘いものが大前提にっ……！」

明日の心配をする前に、今日中に充分な量の胃薬を買っておけるか、
そっちの心配をしなければならないステッキであった。